AR-10
性能:

全長       1024mm
銃身長       559mm
重量        3.36kg
使用弾薬  7.62mm×51
装弾数        20
初速       838m/s
発射速度   700発/分

左は自作です(^^;)
ちなみに、オランダで作られた型で
アーマライト社製品仕様とは
異なります。
 「知将は歴史から学ぶ。愚将は自分の経験で学ぶ。」
という話がある。本当の愚将は自分の経験からも学ばないと思うのだが、実際の解釈としては「これは成功したから今度だっていけるさ」って安易に考えるなっていう事だろう。一度の成功で「それは正しい」と確信するな!という戒めであり、特に軍部は保守傾向が強いためにそれの戒めでもあるだろう。

 AR-10は「ArmaLite 10」の略。俗には「Armalite Rifle 10」の略とか言われるがこれは間違い。なんでかというと「AR」の名がついたショットガンがあるから(AR-17など)Rを「Rifle」の略と解釈するのは無理がある。アーマライト社ではライフルだけでなく各種の銃器を製造販売しており、数字はその通し番号といえる。ただ、ショットガンもライフルも同じ略号では管理上不都合じゃなかろうかと思えるし、アーマライト社ではArmaLiteとAとLを大きく書くからAL-10でもよさそなもんだと思うのだが深い詮索はしない。

 さて、アーマライト社は独立した銃器メーカーではなく、航空機メーカー「フェアチャイルド社」の銃器部門の会社である。設立は1954年10月。フェアチャイルド社は後に倒産の憂き目を見るが、当時は航空機開発をメインに行なっていた。民間機が主体で、軍用機としてはA-10サンダーボルト2攻撃機を作ったメーカーとして知られる。ただ、この攻撃機は電子機器搭載能力で劣ったため、全天候作戦能力がなく、湾岸戦争でそれなりに活躍したにもかかわらず今では第一線装備から外された。電子機器能力が劣るのは配備当初から指摘されていて、相手が高度な防空システムを持っている場合ただの的になるという指摘があった。ただ、A-10自体は今でも配備はされており会社よりかは生きながらえている。以上余談。

 航空機メーカーが鉄砲に手を出す例というのはあまりない。たとえばGM(ゼネラル・モータース。言わずと知れた自動車会社)がサブマシンガンを設計・製造した例はあるが、これは鉄板のプレス加工技術に長けていたからだといえる。航空機ではジュラルミン(アルミ合金)が主体なので鉄砲とは領分違いだったし、銃器は部品同士を溶接で結合する場合が多いけども、ジュラルミンは溶接が不可能なので、余計に領分違いとなっていた。航空機メーカーのフェアチャイルド社が銃器部門を設立したのは社長が鉄砲マニアだったという説が強い。

 無論、無から鉄砲を作り出すのは難しいから、外部から銃器設計者を招聘した。それがユージン・M・ストナーという元海兵隊員の設計技師だった。アーマライト社のコンセプトは航空機製造技術を生かして軽量な狩猟用ないしスポーツ用射撃ライフルの設計・製造だったとされる。のちにAR-10と呼ばれるライフルの開発が始まったのはストナーの入社直後とされるが、実際にはそれ以前にも開発はなされていたとされているが、実際の所はよくわからない。ストナーは軽量化の具体的方法として、機関部など耐久性が必要な所の必要最小限部分のみをスチールで製作し、その他はアルミ合金を多用し、木も使わず、プラスチックを多用するなど革新的方法で軽量化を行なった。

 特に注目される点は作動方式で、一般的に自動ライフルはガス圧で作動する。AR-10も例外ではなかったが、大半の自動ライフルはガスをピストンに押しつけてそのピストンと連動したボルトを動かすという方法が取られていたものの、AR-10はピストンを廃止しガス圧をそのままボルトに押しつける方法を採用した。この方式は俗にリュングマンシステムと呼ばれる。スウェーデンのリュングマンAG42自動ライフルがこの方法を採用したことからその名前がある。ちなみにストナーはこのリュングマン方式の自動ライフル「Mle1949」(フランス軍のライフル)の開発にも携わっていたため、彼にしてみれば手堅い方法と言える一面はあった。ただ、一説にはストナーが特許申請をしていたとも言われている。もしかしたらストナーはリュングマンAG42というライフルを知らなかったのかもしれない。
 軽量化は銃身にも向けられた。内側をチタニウム合金で外側をアルミ合金で覆った軽量銃身が開発された。ちなみに、この銃身がAR-10の軍用ライフルとしての生命を奪う直接的原因となった。

 当初は.30-06弾(7.62mm×63弾)を撃つ設計としていたが、設計終了の少し後に.308ウィンチェスター弾(7.62mm×51弾)の軍用制式を決定した事もあり、それ用にAR-10も設計しなおされた。弾が弱くなるのだから設計変更は容易にできた。仕上がったAR-10は3.4kgとかなり軽量に仕上がり、18発弾を込めても4kgを超える事がなかった。この当時のライフルは本体重量(ライフル自体の重量+カラの弾倉)が4kg程度だったせいもありこれは革新的といえた。このライフルはアーマライト社が軍に売り込みを要望したのか、軍からスカウトされたのかはわからないが、スプリングフィールド造兵廠で試験が行なわれ結果も良好で、軍の一部の人間からは賞賛されたといわれている。ただ殆どの軍の人間はあまりいい印象を持っていなかった。

「アルミとプラのおもちゃみたいな鉄砲に我が将兵の生命を預けられるか!」

 どういう理由かは知らないが、あらかたそういう理由だったのだろう。ただ、AR-10の改良はそれからも行なわれた。外見上で大きく変わったといえばコッキングハンドルが銃機関部右側面からキャリングハンドル内部に移され、コッキングハンドルがボルトと連動しなくなった。つまり射撃中にコッキングハンドルが動かなくなった。たぶん左利き人間対策用で、コッキングハンドルを動かなくした理由はそこに不用意に指を突っ込んで挟まないようにという措置なのだろう。有り得ないとは思うがキャリングハンドルを持っていて移動中に暴発が起こって指を負傷しないようにという措置なのか?詳しくはわからない。ただ言えるのは、連動しないコッキングハンドルは後のM16に、崖から突き落とされる寸前までいく政治的大問題の原因となったという事実だった。
 さて、軍側も独自に次期主力ライフルの開発は行なわれていた。後にM14と呼ばれるライフルで、これはM1ガーランドライフルに20発弾倉をつけてフルオート可能にしたものだった(厳密には多少の設計変更が行なわれているが)。これを「愚作」と今では言われているが、それは結果を知っている我々の勝手な見方だろう。たしかにM1ガーランドライフルは第二次大戦では日本軍・ドイツ軍を圧倒し、朝鮮戦争ではその寒さからM2重機関銃などは故障が相次いだが(銃身が割れたなどしたらしい)、そんな中でも確実に作動し、人海戦術をもって圧倒しようとした共産軍の猛攻を幾度と無く食いとめた。そんな優秀なライフルになぜ今ごろ改良の必要があろうか?!。

 そう考えても全く不思議ではない。いや、そう考えないほうが不思議だろう。

 運が悪いことにAR-10の試験中に銃身が破裂するという事故が起こった。原因はチタニウム合金&アルミ合金の銃身だった。銃身というものはクロムモリブテン鋼で作られるが、それは、クロムモリブテン鋼が固くしなやかだという点にある。ちなみに、今でもクロムモリブテン鋼は多用されていて、銃身・機関部・ボルトなどによく使われている。ただ、熱処理で硬さを変えてある。硬い順番に ボルト>機関部>銃身 となっている。銃身を多少柔らかくする理由は銃弾が異常高圧を起こした場合、銃身を犠牲にしてでもボルトを守るためで、ボルトのロッキングが折れた場合、射手がどうなるかは皆さんのご想像に任せるが、当然こういう自体は絶対に避けなければいけなかった。また、銃身素材を硬くすると、単純に破裂しやすくなる。針金とヤスリを比べれば分かるけども、ヤスリは絶対に曲がらないが折れやすい。銃身も、たとえば火薬の燃焼速度が銃弾の銃身通過速度に勝ってしまった場合に、銃身が膨張する。とにかく、銃弾が銃口から飛び出すまでの時間をその膨張で稼いでくれれば銃身破裂は避けられるわけで、そういう理由からもチタニウム合金といった硬い素材はあまり好ましくなかった。また、硬すぎる銃身素材は命中率を悪化させるとも言われている。普通の銃身はギュー と圧縮して硬くしたクロムモリブテン鋼を銃身内部を削り出して作る方法もあるが、軍用の場合は安さ一番で、平板を銃身のカタに合わせて機械でひっぱたく方法や、やや大きめな竹輪みたいな銃身を作って竹輪の真ん中に棒を入れるように、ライフリングのカタをいれ込んで、水圧圧縮機械で何千気圧もの水圧でギューと押し込む方法もある。この方法は銃身内部に永久変歪を作る。つまり常に銃身内部に圧力がかかっていると同じ状態で、銃弾発射のガス圧(3500気圧にもなる)がそれで相殺される。余談ながらこの製作方法は金属を圧縮した時の騒音がやかましく、耳栓をしないと鼓膜が確実に破れるほどだと言われている。まさに「金属の悲鳴」なのだろう。もしかしたら、そういう設備がフェアチャイルド社になかったためにチタニウム合金&アルミ合金バレルを採用したのかもしれない。

 話は脱線したが、この欠点を重要視した軍保守派はこれみよがしとM14ライフルの制式化を決定した。この時点でアメリカにおけるAR-10の採用の可能性は薄くなった。無論、「しゃぁないなぁ」と諦めるわけにもいかない。今までに大規模に投資しているし、折角作ったし、第一、軍隊に採用されたら万単位で発注がくるからおいしい。その販売は他国に向けられた。
 オランダのアーティラリエ・インリッチゲン社がライセンス生産をしたいと名乗りをあげた。アーティラリエ・インリッチゲン社というのが親会社がフォッカー社だった。フォッカー社というのは言わずと知れた航空機メーカーでやはり、餅は餅屋だということか?アーマライト社はライセンス生産の許可を与えた。アーティラリエ・インリッチゲン社はオランダ軍に採用されるようにと売り込みを計り、オランダ軍でもテストされたようで、いろいろと小改良が加えられた。結果からいえば採用はなされなかった。また他国へも積極的に売り込みが行なわれた。不幸だったのは隣国ベルギーのFN社のFALという自動ライフルが先発して販売されており、これを採用する国が多くあったため、AR-10はお呼びではなかった。それでも、ポルトガルなど一部の国では採用がなされたものの、それは少数の採用で、本格的に採用した国は1つもなかった。もはや売れる見込みがないと判断したアーティラリエ・インリッチゲン社は1960年にライセンス契約の不延長を通告。生産を停止した。さらに不幸だったのは1960年代初めからH&K社のG3自動ライフルが各国の売り込みに成功したという点にある。あと何年か売り込みをやっていたらあるいはどっかの国で採用がなされていたかもしれない。

 さて、アメリカ本国に話を戻すと、AR-10は小口径弾薬仕様に改造されAR-15が誕生していた。時はベトナム戦争真っ只中にもかかわらずM16ライフルとして制式採用されていた。当初は問題視されてはいたが、改良がなされてアメリカのベストライフルとなっていった。AR-10の開発コンセプトが、その設計が間違いではなかった証明ではあったが、それはAR-10が軍用に採用される光明が完全に閉ざされた瞬間でもあった。
 AR-10自体は民間用として販売されており、それは今でも販売されている。軍用弾がそのまま使える点と(軍用弾は量産して、余剰弾薬は民間に流れるので弾が安価)特に5.56mmと比較すると狩猟用としても威力ある自動ライフルとして評判は高く、売れ行きもいいという。
 軍用としては完全に失敗した。いや、本来の目的に落ち着き、今もその銃器生命の火をともしているというべきなのだと評価すべきなのだろう。


 上のイラストを見てもらえればわかるように外見上ではM16とそう大差はない。よく、AR-10とM16A1の比較写真なんかがあってそのコメントで「M16がスマートな印象をうける」とあるが、使う弾薬がちがうのでそうなのだろうとしか言えない。ちなみに、上のイラストはオランダ型でアーマライト社の製品とは多少異なる。異なる点は、ハンドガードが上のイラストでは後ろ半分しかないけども、これはオランダのほうで放熱を重視した結果でアーマライト社製品はこうなってはいない。全てがプラスチックで覆われている。また、着剣装置が上にあるが、これもオランダ側の改修でアーマライト社製品ではオーソドックスに下についている。上につけた理由はよくわからない。あと、上のイラストでは分からないけども、セレクターは、M16の場合は銃の前方からSAFE-SEMI-FULLとなっているけども、アーマライト社で当初作られた製品は銃前方からSEMI-SAFE-FULLとなっていた。ようは安全を中間にしておいて、そのポジションから単発も連発もすぐにできるようにとの配慮だろうけども、さすがに使い勝手が悪く、オランダでのAR-10ではM16と同じように改修された。ちなみに、現行モデル(民間用AR-10)もM16と同様になっている。あとはマズルがオランダ側のではグレネードが撃てるように鳥かご型になっているけども、アーマライト社の製品では初期のM16のように三又になっていた。余談ながら、これも現行品では鳥かご型になっている。スリングを吊る場所も、アーマライト社のでは銃の下になっているが、オランダでのAR-10は左側面にスリング吊りがある。これはM16A1でもM16A2でも下のままだが、ベトナム戦争時の記録写真を見ると、横にスリングをかけられるように金具を増設して、ストック部分はスリングでグルグルまいて左側面にスリングをつけている兵士が多いことからも、左側面につけたほうが現実的にいいのだろうと解釈すべきなのだろうけども、アメリカではなぜか下にこだわる。その理由もよくわからない。

 M16との違いを列挙すると、外見のこまごまとした点は省くとして、フロントサイトが完全固定になっていた点にある。そのため、リアサイトで上下左右を調整する必要があった。リアサイトの上下調整は手でグリグリと調整可能だったけども、左右調整は工具が必要だった。その点も軍用ライフルとしては欠点であったに違いない。M16A1では上下調整はフロントサイトで行なうようになり、左右調整は銃弾でグリグリと調整できるようになった。M16A2では手で上下左右ともに調整が可能となっている。また、ボルトフォワードアシストがない。初期のM16でもなかったので当然ではあろうが、ボルトが途中で止まって半閉鎖状態となった場合射撃不能になるので、これは大きな欠点だったとも思える。もっとも軍用として本格的に採用されなかったためその欠点は露呈しなかった。設計者のストナーに言わせれば、ボルトが途中で止まってるってのは内部が異常をきたしている証拠だ。そんな中でボルトを強制的に押すなんぞもってのほか。という根拠らしい。しかし、戦場ではそんな銃の命よりも自分の命が重要なのだから、そんなのに構っていられない。無論民間用としてはそんなのは無用で、半閉鎖状態になったらバラしてお掃除して対処するようになっているのだから、市販品のAR-10にはボルトフォワードアシストはない。これは市販のM16(AR-15)でも同様で、軍用のはボルトフォワードアシストはあるのに、民間用のにはない。