94式拳銃
性能:

全長     180mm
銃身長    95mm
重量     0.72kg
使用弾薬 8mm南部
装弾数     6

左絵は花壱さんからいただきました。ほんとありがとうございます
≦(_ _)≧
 太平洋戦争の終結まで、日本は拳銃から戦艦まで、独自に兵器を開発をして製造を行っていた国の1つだった。ここまで独自に開発できる国は世界でも限られており、これは大きく評価していいだろう。ただし、個々の兵器の評価となると総じていいとは言えない。艦艇はかなり評価が高いが、航空機になると航続距離はともかく、防弾性能が悪い・稼動率が低い・馬力が低いなどど叩かれる事もある。ただ、いい評価もあるにはあるし、同時代の他国の航空機と比べても遜色は無かったと言える。ただ、陸戦兵器となると話は別で、たとえば戦車は、いい評価はまずない。銃器類もたとえば92式重機関銃あたりは、古めかしい保弾板式を使用している・重量がとてつもなく重い・潤滑油を使わないと上手く作動しないなど総じて評価は悪いほうだと言える。だが、命中精度のよさを評価している向きもあるから悪い評価ばかりとは言えない。ただ、いい評価が全くなく、それどころか世界最低という悪評がたつ銃が1つあった。今から紹介する94式拳銃がそれだった。

 第一次世界大戦で航空機が大量に投入され、戦車はこの大戦から初めて使われだした。この戦い以降は航空機や戦車は戦場に無くてはならぬ兵器となっていった。彼らの自衛の武器は乗り物の都合上、小さい方がよかった。日本には南部14年式自動拳銃があったものの、やや大型で装備していて邪魔になる事があった。また、将校用の拳銃も小型が良かった。日本では南部14年式拳銃を小型化した拳銃があったものの、信頼性に劣る上に単価が外国製の倍程度したため、多くの将校が外国製の小型拳銃を購入していた(将校の拳銃は自腹購入だった)。将校各個人がバラバラの拳銃を購入する事は(いくら飾りとはいえ)補給上の観点からも好ましくないし、戦車兵や航空兵に自腹で拳銃を買わせるわけにもいかなかったし、だいいち、第一線に投入させる兵士に自軍の使用している弾薬以外の拳銃を持たせる事はこれも補給上の問題で好ましくはなかった。また、昭和6年の満州事変以降、国産兵器愛護精神ができつつあった中で「拳銃ぐらいまともなものを作れんのか」というグチに近い意見もあったろう。

↑土浦の武器学校にある94式拳銃。
銃身に穴が開いているのは使用不能にするためだろうと考えられる。
見たように頭(スライド部が)でっかちな印象を受けるがこれは銃把が小さいことによる。
当時の兵士の話では持ちやすかったと評判があるが、大柄な人だと
苦労したのではなかろうか。
 陸軍省兵器局は、南部銃製作所に対して

・全重量800g以内
・6発以上連続発射できる(つまりオートマチック式)様にする
・他国の中型拳銃と同程度かそれ以下の寸法
・将校用拳銃として品位のある格好

などを要求した。特に要求が厳しかったのが、寸法で極力小さくする事が求められた。小さくしないといけなかった理由は、日本では、特に陸軍では刀を病的なまでに装備させていたし、装備することが粋とされていた。戦場における軍刀など見た目のかっこよさ以外に役に立たないのは分かっていた筈だが、ついに日本陸軍上層部は廃刀令は出せなかった。軍刀を装備させないといけない以上拳銃は小型で軽量な方がいいのは当然の理だったと言える。
 大型拳銃弾を中型拳銃に用いるのだから南部小型拳銃(7mm口径)と同じ構造にするわけにはいかず、ストライカー方式から内蔵ハンマー式に撃発装置を変更した。またこれは撃針を短くするにも有効だった。グリップも6発入るまでにギリギリの寸法で設計を行い、出来上がってみたら、軍の要求よりも80gも軽く仕上がった。

 昭和10年に制式採用されたが、昭和9年の皇紀2594年から取って94式拳銃と名づけられた。1年早まっている理由は、開発開始が昭和9年からで、その際に仮に94式と命名されていたからだとされる(昭和以降の制式採用兵器名称は明治・大正と元号が重なってややこしいので皇紀から取るようになった)。作動は快調で、南部小型拳銃のようにジャムったり(ジャム=薬莢詰まり)撃針破損などはなく、実に性能は良く、制定当初は軍用拳銃にふさわしいとされた。
 ただし、単純に撃つだけなら性能は良かったが、欠点も多かった。グリップが極端に小さく、手袋使用時の保持が難しかった。連射の際はなおさらだった。また、ハンマーが内部にあるからではないんだろうけどシアーが露出していた。いうまでもなくここを触ると暴発してしまう。またマガジンキャッチが親指と干渉する位置にあるため、射撃中に弾倉が脱落してしまうという事もあった。そして構造上コッキングピース(弾倉を装填して薬室に初弾を送るときに引く部品)が小さい上に8mm南部弾を使用するためリコイルスプリングがやたらと堅いため引くのが難しかった。だから知恵のある人は壁に銃口を押し付けてショートリコイルさせてからコッキングしていたという。

 太平洋戦争に突入して、戦争末期になってくると、他の兵器と同様に省力化の名の下の改悪が行われ、拳銃は特に主力兵器ではなかったため、その改悪が著しかった。中には射撃行為自体が自殺行為だともいわれるものもあったという。戦後のアメリカのテストでは評価は当然ながら最悪で、「スイサイト・ピストル(自殺拳銃)」とまで酷評された。
 戦後、日本軍は解体され警察予備隊(後の自衛隊)が編成されると、兵器体系はアメリカのものとなったため日本の兵器は使われなくなり、94式拳銃も歴史の中に消えていった。

 戦後から今まで、この94式拳銃は極めて評価が悪い。日本国内ではともかく、外国の銃器関係の解説文では94式拳銃の評価はすこぶる悪い。この拳銃の利点を書いているのはまずなく、悪口ばっかり書かれている。「不格好な拳銃」とよく書かれているし、中には「軍用拳銃史上で世界最低最悪の拳銃」とまで評した本もあった。94式拳銃の名誉のためにいうが、不格好というのは美的感覚の問題だから1個人でいわれる筋合いはないだろう。安全面では確かに下のランクに部類するけど、銃の仕上げは初期型を見る限り、決して悪くはなかった。しかし、今でも現存している昭和19年製や昭和20年製などを見ると、「はぁ〜」とため息がつくばかりに仕上げは荒い。
 戦後から今にかけて、アメリカでも94式拳銃は流通している。1970年代までの取引価格は10ドル程度。高くても20ドルを超えることはなかった。素直にいえば、「もの珍しいから買ってみようか。見飽きたなぁ。じゃ売ろうか・・・」な感じでしかない拳銃であったのだろう。実際8mm南部拳銃弾は外国で製造されてはいたが、ほとんど売れず大量に在庫を抱えて困ったという話も伝わっている。撃って楽しむような拳銃ではなかったのだろう。ただ、さほど大事にされず、壊れたら即捨てられていたからなのか、今では希少価値があり、価格も300ドル以上に跳ねあがったといわれているが、やはり「希少だから」でしかなく、「カッコイイから」買い求めるというわけでもないのだろう。



 94式拳銃は作動メカニズム的にはショートリコイル式で、銃身基部下方にあるロッキングブロックで銃本体と銃身が固定されるようになっている。
 14年式拳銃のストライカー式から内臓ハンマー式に変更されている。撃発を確実にするためだといわれている。ただ、内部から見てハンマーがコックされているのかいないのかが分からないという欠点がある。どうせハンマー式にするのなら、露出型でも良かったような気もするが、内臓式にした理由は良く分からない。94式拳銃独自のメカニズムとして、ハンマーにローラーがついていた点がある。このローラーはスライドが後退するときに滑りを良くするためにハンマー上部につけられているが、この仕組みを持った拳銃は94式拳銃以外にはない。正直にいえば「ムダ」な機構だったと言えるかもしれない。

 何処の国の、誰の書籍を見ても絶対に書いてある94式拳銃の欠点といえば、シア(厳密にはシア・バー)が露出している点が指摘される。つまりここを押したら引き金の作動に関係なく銃弾が発射されてしまうのである。これは安全上大きな欠点だと言える。ただ、実際にいじくると、よほど強く押さない限りは撃発はしない。
 本当の欠点は安全装置にあると言える。94式拳銃の安全装置はシアを固定するだけの仕組みとなっている。94式拳銃の発射メカニズムは、

ハンマーをコックするとシア・バー後方のつっかえ棒がハンマーの穴に入りこむ→引き金を引くとシア・バー全体が動く→シア・バーのつっかえ棒がハンマーから外れる→ハンマーが落ちる→発射

の順序となるが、シアー・バーのつっかえ棒をハンマーの穴から外れないように外部からストッパーをかけるような仕組みがこの安全装置の仕組みとなっている。ただ、この安全装置は構造上きつく組立ができず、また頻繁に使う関係上ガタがきやすい。つまりは安全装置と銃本体のクリアランスがどんどんと広がっていくわけで、安全装置の意味がなさなくなっていく。使い込んだ94式拳銃は安全装置をかけても発射が可能だったと言われている。コルトM1911A1(ガバメント)のように銃弾を薬室に入れて、ハンマーをコックして安全装置をかけるいわゆる「コック&ロック」は94式拳銃では文字通りの自殺行為だったと言える。
 また、引き金を1回引いてしまうとシアにテンションが掛かったままの状態になる場合があり、安全装置が完全作動するときはまだ大丈夫だが、テンションが掛かったままなので安全装置解除と共に銃弾が発射してしまう危険もあった。94式拳銃は弾倉を抜いた状態では撃発しないようにする安全装置を組み込んでいるというのに(手入れの際に暴発しないようにするため。軍用拳銃での死傷は敵兵を殺すよりも味方での事故によるものが圧倒的に多かった)なぜそこまで安全を軽視たのかはよくわからない。

 分解は多少ややこしい。まずは弾倉を抜きスライドを引く、スライドを引ききった位置で固定する(94式拳銃は弾倉と連動したスライドストップはないが、手入れのため用のスライドストッパーがある)。撃針(ファイアリングピン)を押しながらボルトとスライドを固定しているピンを抜く。このピンはマイナスドライバーのような工具を使わないと抜けない。そうするとボルトが後方に抜ける。この状態になったらスライドが前方に簡単に抜ける。スライドを抜いたら銃身も簡単に抜けるようになっている。このように野戦分解に工具が必要という点とピンが抜けるという点は軍用銃としてはやや難な点もあるが、たしかに兵営内で手入れする分には申し分はなかったろう。恐らく、戦場に出なかったらもっとマシな評価が与えられたのではないかと思えなくもない。