SIG/SAUER P230
性能:

全長      168mm
銃身長      92mm
重量      0.46kg
使用弾薬    9mm×17
装弾数         7発
 1960年代後半から1970年代前半にかけて、テロリストが続発した。特に1972年のドイツ(当時の西ドイツ)で、ミュンヘンオリンピック村での事件があった。この事件は1972年9月にチュニジアに本部を置くパレスチナ組織「黒い9月」がミュンヘンオリンピック村へ襲撃し2名を殺害。また、イスラエル選手団9名を人質にしてフェルステンフェルドブルグ空軍基地で銃撃戦を展開後、2名のテロリストは持っていた手榴弾で人質ごと自爆。結局人質9名は全員が死亡した。この後、イスラエルはレバノンに対して報復攻撃を仕掛けるのだが話が脱線するのでこれ以上の記述はやめておこう。

 これを機に西ドイツではGSG9が編成された(GSG9はベタ約せば「第9国境警備隊」となるのだが、これは国境警備隊を母体に編成されたのでその名があるけども実質的に対テロ部隊である)。既存の部隊を編成したため、スムーズに部隊編成は行われたが、あとは隊員に持たせる銃器だった。当時西ドイツ軍にはP1が支給され、西ドイツ警察にはPPKなどの中型拳銃が支給されていた。編成当時のGSG9が何の拳銃を使っていたかは分からないが、軍用のP1では威力は充分だがデカい。かといって警察用拳銃はコンパクトだが、銃弾の威力がない。かといってPPKに9mmルガー弾用のを撃たせるようにすれば解決するという問題でもなかった。理由は簡単で中型拳銃にそんな威力のある銃弾を撃てるだけの強度を持たせるのは大変だし射撃する人間もまたもたなかった(ホールドできる部分が小さいので)。そこにシグ社は目をつけてP230の開発に踏み切ったと言われている。

 P230の銃弾は.380ACPという9mm×17弾である。ちょうど9mmルガー弾(9mm×19)とPPKの弾の中間的な威力の弾薬だった。この弾薬自体は今まで全くなかった弾薬体系という訳ではなく、戦前のドイツでワルサーPP用に実際に使用されていた銃弾だった。この9mm×17弾(当時も9mmクルツ弾と呼んでいた)用のPPは反動が強いとの不評でさほどは生産されなかった。なお、これは空軍兵士用に行われたという文献もあるが実際には分からない。
 P230の特徴は当然といえばそれまでだが小さい事。そして極力出っ張りを抑えた構造ともなっている。理由は服から取り出したときに引っかからないようにするためで、この構造をもっても警察用にも採用を狙ったのだろう。重量も限界とも思える500g弱にまで贅肉を削り落とした。しかし、PPKと違って安全装置がない以上、デコッキング装置は必須なので、P220のようなデゴッキング装置がつけられた。P220シリーズのような無骨な作りではなく、P210のような繊細な作りとなった。まさにスイスの工業製品とも言え、「まさに芸術品」と絶賛する人もいる。こうして完成したP230だった。当時の西ドイツ警察用のトライアルとして提出されたものの、結局はH&KのP7が選ばれた。威力不足と値段の高さが採用への壁となったといわれている。結局は民間用として売られるにとどまった。しかし、この拳銃に日本の警察が注目した。たしかに、日本ならそう銃撃戦があるわけでもないし、そんなに威力のある拳銃は必要ではないし、値段の壁も国産と比べたらさほど変わらないし、そのコンパクトさは全く違和感のないものだから注目しても至極当然とも言えよう。私服刑事や要人護衛のSP(セキュリティ・ポリス)などに採用されているという。また、日本の制服警官にも採用されているという噂もある。真偽のほどは不明だが・・・。

 P230はたしかに曲線美に優れた拳銃だといえる。小型なので、デコッキング操作は持ちなおす必要もなく片手で簡単に行える。女性のような手の小さい人でも十分に扱えるだろう。極力出っ張りを排しているのも特徴で、普通の拳銃に存在するスライドストップやマガジンキャッチが存在しない。出っ張りを廃するとホルスターから抜きやすいこともある。
 マガジンキャッチがないのは、不用意に押してしまって弾倉を脱落させないようにだろうか。無論弾倉受けはある。場所はグリップ下でちょうどワルサーP38と同じようになっている。ただ、この弾倉受けレバーは非常に操作しやすく、また弾倉も少し出っ張っているので抜き取りやすい。即座に弾倉交換ができないといえばそうなのだが、ワルサーP38よりは何倍もマシと言える。また、下の方が出っ張った弾倉は、小指がちょうどいい位置にきていいフィンガーレストになる。この辺のデザインの秀逸さはSIG社技術陣の功績だと言える。
 上で書いたようにスライドストップがない。弾切れして、弾倉交換した場合に、1度スライドをちょっと引く必要がある。手間といえば手間で、弾倉受けの形状と相成って即応性に劣るといえば劣る。この辺が警察部隊での採用のネックになったのかもしれない。もっとも、そうそう撃たない部署や民間用の自衛用にはもってこいだろう。

「コンパクトです。
 出っ張りがあまりありませんから即座に抜けます。
 安全装置がありませんから即座に撃てます。
 反動も小さいので1発目が外れても即2発目以降があります。
 7発積めこめますから数撃って敵に当ててください。
 それでダメなら諦めてください。」

そんなキャッチコピーが合いそうな気もする(笑)。
しかし、P230はそういう性能面だけでなく自衛用で合いそうな気がする。そう。デザインがお気に入りの拳銃は持っているだけで楽しいものなのだ。