VP70
性能:

全長       198mm
銃身長      112mm
重量       0.81kg
使用弾薬   9mm×19
装弾数       18
左の絵は自作です(^^;)
他意は、ないです(^^;)
 戦争というのは負けだすととにかく兵器の省力化の名の下の改悪が行われる。たとえば、日本で例をあげれば99式小銃は針金のバイポットや対空照準器が省略された。これら2つはどうせ役には立たなかったのだから、別に構わない。あと床尾板が金属から木製化し、銃身内部のクロームメッキも省略された。耐久性に疑問が残るがまぁ許容範囲だろう。一番良くなかったのは検査工程で判定基準がかなり甘めになった事で、末期の99式小銃はシアのかかりが悪く、ボルトを引いて押しこんだら暴発したという話も伝わっている。

 ドイツでは病的なまでに合理性を求めた国だったと言える。たとえば兵器類も多少は省力化はしただろうが、たとえば機関銃やライフルなど現存している兵器の大半は大戦末期に作られたが、今でも作動するものは数多い。ドイツの造兵廠では合理的に生産性向上・省力化を行っていたのだろうし、だいいち手抜きは即座に不良を起こすというのは彼らは知っていたのだろう。設計された兵器は基本的にその時点でベストの製造方法での組立を基準にされる。つまり省力化の名の元の改悪が行われるとヘタすれば使い物にならない。では省力化した製造工程でベストな兵器を作るにはどうすればいいか?。答えは簡単。そういう前提で設計を行えばいい。
 将来を見越して(たとえば物資・人員不足になるだろうと簡易的兵器を作るとか)設計を開始するなら話は別だが、戦争になった場合、普通は既存の兵器の改造で手一杯で新規設計となると結構大変だった。例をあげていえば、日本の航空機で、太平洋戦争開戦以降に計画されて実用化できたものは偵察機の彩雲のみだった。ドイツの傑作機関銃MG42は名前のように第二次大戦真っ最中の1942年に制式採用されたが、設計自体は戦前から行われていた。

 第二次大戦で敗戦が近づいた枢軸国は、たとえば日本は国民に竹槍を持たせたが、ドイツでは各種の簡易銃器を設計・製作した。上で書いているように新規設計はとにかく手間がかかるが、限られた生産力でより多く銃を作るにはそれしか手段がなかったのだろう。ドイツでは戦意高揚のために”VOLK”(フォルク。国民)という言葉を多用したこともあり、国民小銃、国民突撃銃、国民機関短銃などがつくられ、挙句の果てには国民戦闘機なるものまで登場した。さすがに国民戦艦はなかった。これらは連合軍がドイツ本土に侵攻すると実際に使用されたが、戦果のほどはほとんどなかった。銃自体はまともに使えたが、さすがに使う人間がロクに訓練されていない少年や老人だったからだろう。

 当然ながら、国民拳銃というのもあった。銃器メーカーの老舗であるモーゼル社が開発を担当した。VP(フォルクスピストーレ)と呼ばれた拳銃で、作動方式は単純なブローバックとして生産と調整に手間のかかるショートリコイル機構にはしなかった。ただし、ブローバック式だけでは燃焼ガスが射手に浴びせられる可能性があるために、スライドを重くして後退時間を稼ぐ事とした。そのためにスライドがやや大きめでしかも重くなった。材質は鉄板のプレス加工品のみとして、とにかくすぐに作れるようにした。一応はまともに動いたしちゃんと使えたものの、戦場であまり必要とされない拳銃なので生産数はあまり多くなく、戦場に出た記録もない。もっとも、出たところで活躍することもなかったろう。
 敗戦後、ドイツではワルサーP38がP1と名前を変えて軍用に供給されたこともあり、VPは歴史の中に消えていった。筈だった。


VP70のセフティ。
ちなみにこの状態で発射可能。
押し込むと発射できなくなる。
 1970年代初頭、銃器メーカーのH&K(ヘッケラー&コック)社が突如として、VPをベースにVP70という拳銃を作り上げた。フレームを鉄板プレスから強化プラスチックに変更したなどあるが、基本的な構造はVPそのままに、3点バースト機構を取り入れた。ただ、そのままでは3点バースト射撃に耐えられないために専用ストックも作り、専用ストックをつけないと3点バースト射撃ができないようにした。
 なぜこの時期にこういう拳銃を作ったのかは、一説には”第3世界(大国以外の小国)向けに安く作り上げて売る予定だった”ともあるが、それなら3点バースト機構という複雑なメカニズムを組み込む必要はないだろう。

 1970年前後の情勢といえば、戦争といえば、たしかに中東でのイスラエル対アラブ連合軍の戦い(中東戦争)や、特にベトナムでのアメリカ軍とベトコンとの戦い(ベトナム戦争)があるが、両方とも、特に拳銃が活躍したというわけでもなく、いや、むしろ両者とも対極の戦いだった。中東戦争は砂漠戦ということもあり、イスラエル軍のUZI短機関銃の活躍が危ぶまれていた。対してベトナム戦争ではジャングル戦であり不必要に射程距離が長く威力があったM14ライフルに見切りがつけられて小口径のM16突撃ライフルが採用されていた。ただ、いずれも拳銃の有効性は見出されてはいない。拳銃の有効性があったといえば、ベトナム戦争ではベトナムの土が粘土質だったこともあり掘りやすく、ベトコンはトンネルを掘ってアメリカ軍に対抗した。アメリカ軍もトンネル線は重視して、トンネルに500ポンドの爆薬を仕込んでトンネルを封鎖したり(出口は一箇所ではないのであまり意味がなかった)、アセチレンガスを注入して入り口から点火して酸素をなくして窒息させようとしたり(トンネルが長いとこれもあまり意味をなさなかった)した。一番手っ取り早く確実だったのは、兵士をもぐりこませることで、無論トンネルだから長いライフルよりも拳銃が好まれた。装備は野戦服と拳銃一丁という身軽なもので、決死的任務に違いなかったが、それなりの戦果もあった。
 そういう事情があったにせよ、だからといって新しい新規開発された拳銃を軍が欲したとも考えられない。なお、1960年代末からテロリストはハイジャックという手段を取り出したが、本格化するのは1972年のミュンヘンオリンピック村事件以降だともいえ、対テロ特殊部隊用だったのも考えられない。実際の所、どういう理由でVP70が開発されたのかは良く分からない。
 H&K社の考えとしてはとにかく新しい技術を設けた拳銃を作って売ろうという考えだったのだろう。もしかしたら、何か付加価値をつけただるドイツ人の気質によるものだったのだろうか?

 結論から言えばVP70は売れなかった。理由はいろいろあるし特定はできないが、一番の理由はやはり3点バースト機構ではなかったかと思える。重量が軽い拳銃に3点バーストは無意味であり、特にVP70はダブルアクションオンリーなので、つまりは引き金を引く力でハンマーを起こさなければならず、射撃の際にはどうしても照準がブレる。こういう状況では3点バーストはあまり意味をなさなかった。この辺が同社の短機関銃MP5(クローズドボルト採用で命中精度が高い)と明暗を分けたような気がする。
 あとの理由としては、3点バーストという付加価値をつけたがために単価が高くなったこともあげられるだろう。これではストレートブローバック(ショートリコイルしないのでロッキングがいらないので単価が抑えられた)の単純構造もあまり意味を為さなかったろう。
 3点バースト機構搭載のためにそのまま市販ができず、単発のみとしたVP70Zも開発され販売されたがこれもあまり売れなかった。理由を察するに、3点バーストというウリがなくなった以上、ただの簡易生産拳銃にすぎず、またダブルアクションオンリーで撃ち辛く、不必要に大きいスライドなど、あまり販売上のメリットがなかったというのが理由だろう。
 VP70は左利きの射手が持つと持ちにくいためにグリップ形状をほぼ左右均一化したVP70Mも作られたが少数が生産されただけだった。そもそも大元がコケているのだから、些細な改良を施しても売れる見込みなどなかった。

 今ではVP70は生産されていない。ただ、そのユニークな構造とその機構はコレクションには最適で、コレクターの間では高値で取引されていると言われている。



 VP70は外見上では頭でっかちな印象を受ける。たしかにスライドの重さとリコイルスプリングで閉鎖を行うのだからそうならざるを得ないのだろうが、重量バランスは悪そうに思える。あとの外見的な特徴としては、引き金が極端なU字をしていることで、なぜこういった形になったのかは良く分からない。
 操作面でいえば、グリップはわりと細めなので握りやすい。引き金が多少前にあるし、ダブルアクションなので余計に引きにくそうだが、エアガンならともかく実銃では引きにくそうに思えるのだがどうなのだろう?。
 安全装置は引き金の後ろにあるボタンで行う。右利きの場合、左から親指で押しこむと安全装置作動で、反対側から押すと安全装置解除となる。正直いえばとっさに撃てない。これも欠点ではなかろうかとも思えるのだが、個人的に言えば、MG42の安全装置とは逆なのでやりずらいというのが本音。
 マガジンキャッチはグリップ側面にはなく、グリップ下にある。ワルサーP38と同じ方式で、普通に使う分にはやりにくくはないが、素早いマガジンチェンジがやりにくい。また、専用ストックをつけるとなおさらやりにくい。誤操作で弾倉を落とすことはないのだが、この銃の性格上、マガジンチェンジはすることもあるだろうからその辺も欠点だと言えるかもしれない。
 専用ストックを装着するにはスライド後方とグリップ下の2箇所を合わせる必要がある。この辺は過去のモーゼルミリタリー(R713)やスチェッキンAPSなどグリップでしか固定していないストック付き拳銃と比べれば、強度の問題では上だと言える。ただし迅速な装着はこれらと比べればやや難しい。ただ、個人的な感想を言わせてもらえば、木のストックは水を吸ったりすると急速に強度が落ちて結構ガタがきやすいが、VP70のようにプラスチックだとそういったことがないので、その辺の安心感があるにはある。このストックに1と3のセレクターがあり1にすれば単発で、3にすれば3点バースト射撃ができる。3点バースト射撃はかなり早く、見た目には1発しか撃ってないように見えるぐらいに速い。これは反動が来る前に3発撃つから命中精度向上には役立つだろうが、だから故にダブルアクションオンリーなのが悔やまれる。

VP70の照星。
出っ張りがなく、また、外枠が
白いために薄暗い時でも狙いやすい。
 VP70はストックが付く関係上、スライドストップがない。これは射手が弾切れを知らせる機能がないということで、「撃針が落ちる音しかしなかったら弾切れだろ?」と思う人もいるかもしれないが、これは実銃を撃たないと分からないだろうが、弾が発射しなかったからといって弾切れとは限らず、不発の可能性もある。つまり、弾切れと思って弾倉を抜こうと銃をこっちに向けたら遅発で銃弾が発射されたとか有り得なくはない。半世紀前に生産された弾ならともかく、今現在の銃弾で遅発があったというのは寡聞にして聞かないが、どうにせよ射手には不発か弾切れかが分からない。特殊部隊の人でも残弾があと何発かというのはどんなに慣れても分からないから(そのために、短機関銃の場合、5・6回バースト射撃したら残弾のあるなしに関わらず弾倉交換を行うように訓練されている)これは欠点だといえるだろう。余談ながら、グアムなどの射撃場で撃針が落ちる音しかしなかったから「なんだ、弾切れかぁ」と弾倉を取り出そうと操作しようとしたら、店員から「おい!不発だ!弾は入ってるぞ!」と注意されギョッとなる観光客も稀に見かけることはある。
 利点といえば、個人的に思うに照星の形状で、普通の拳銃のようにただ細い部品が出っ張っているのではなく、サンドイッチのような三角形の形状の部品がのっかっているような感じで真ん中がヘコんでて両サイドが白く塗られている。このサイトは正直いって見やすい。狙う先が黒っぽい場合は相当狙いやすい。他の拳銃がなぜ真似しないのかが疑問に思えるほどだと思う。