SMLE No.1Mk3
性能:

全長       1130mm
銃身長       640mm
重量        3.99kg
使用弾薬 7.7mm×56R
    (.303ブリディッシュ)
装弾数        10
初速       745m/s

 新興国家ほど小回りが利き、伝統のある国ほど小回りが利かなくなる。とよく言われる。たしかに、ドイツは帝政が崩壊して共和制になったせいか、過去に縛られることなく再軍備を行えた。たとえば「戦車は歩兵の支援兵器」という固定概念を打ち破り、独立した運用を行った最初の国であったし、重機関銃と軽機関銃を分けて装備という固定概念を無くしてMG34という汎用機関銃を最初に生み出した国家でもあった。ソビエトも多砲塔戦車という変なものを作ったりはしたが、T-34戦車という傑作戦車を生み出した。傾斜装甲、変速機を車体後方に置くなど後々に与えた影響は計り知れない。
 それに対して、勝った側は保守に走る。たしかに「勝った」という実績があるからで、たとえば新機軸を打ち出しても「その必要はない。我々は現用で勝ったではないか」と一蹴されるのは珍しくはなかった。装備更新すると金がかかるし手間もかかる。それを口実に金をケチっていたのが現実的な問題であったと言えるかもしれない。


 SMLEとはショート・マガジン・リー・エンフィールドの略。「ショートマガジン」というのは弾倉を短くしたという意味ではない。日本語にそのまま訳せば「エンフィールドライフリングを持ったショートライフル」みたいになる。ちなみに1902年制式採用でその後にいくつかの小改良が加えられた。第二次大戦開戦時の本銃の正式名は「Rifle No.1 Mk3 SMLE .303」だが、長ったらしいので本文ではSMLEと呼称することにする。

 イギリスは「日の沈まない国」と言われるぐらい世界各国に植民地を持っていた。当然反乱はどこででも発生し鎮圧には軍隊を投入した。実戦経験は豊富だったというのは当然の理だろう。
 19世紀の末になると無煙火薬が発明され、また、モーゼル式閉鎖方式のボルトアクションライフルが完成すると、兵士が所有するライフルは一応の完成を見たといってもいいだろう。当時のライフルは全長が1.3m前後と結構長かったし銃剣もまたしかりだった。それには理由があって、当時決戦兵種といわれた騎兵突撃対策として、長いライフルと長い銃剣で槍襖を作る必要がどうしても必要だった。1815年のワーテルローの戦いで、フランス帝国のネイ将軍の5000人騎兵突撃はつとめて有名だが、これを阻止したのはイギリス軍の方陣を組んだ銃剣で槍襖を作った歩兵だった。ただし、1発1発弾込めをしていた時代ならまだしも、ライフル自体に弾を何発も込められるようになると、もはや騎兵突撃自体が自殺行為となっていった。機関銃の発達もその拍車をかけたといえるだろう。歩兵戦となると、逆に長すぎるライフルは兵士にとっては大きな枷となった。戦場は広い平地だけで行われなくなった。散開戦術が主流になると遮蔽物を利用して各個前進という戦術が主体になると、不必要に長いライフルは不要と考えられた。また、重たい。歩く兵士にとっては辛いものだった。こういう実戦経験は、ボーア戦争など各地の戦いで戦訓として残った。1895年に制定されたリー・エンフィールドライフルを切り詰めた型が、このSMLEライフルだった。
 上で書いているように制式採用は1902年で、日露戦争の2年前にあたる。全長は110cmちょっとしかなく、当時のライフルとしては短い部類に入った。実際、制定の2年後に起こった日露戦争では、日本が恐れていたロシア軍のコサック騎兵は日本兵がもつ30年式小銃の火線の前には突撃ができず、決定的な活躍ができなかった。ライフルを短くしたイギリスの決断は評価すべきだろう。

 SMLEライフルが本格的に、そして大々的に使われたのが第一次大戦だった。当然ながらイギリス陸軍の主力ライフルとして実戦投入された。SMLEライフルの評価は二分されてはいるが、総合的に見れば評価は良かったといえる。敵のドイツ軍が使っていたモーゼルGew98と比較した場合、全長が短いし装弾数もGew98の5発に対して10発と倍入った。また、ボルト操作ストロークもSMLEライフルのほうが短くてボルト操作が多少楽という点もあった。ただ、決定的な利点ともいえず、機関銃の大活躍の陰に埋もれたというのが実際だったと言えるだろう。

 SMLEライフルは小改良を加えながら第一次大戦後も使われつづけ、第二次大戦が始まった年の1939年には新型のNo.4ライフル(新型といってもSMLEライフルを外見的にも改造したもの)の生産が始まったが、この戦いでもSMLEライフルはイギリス軍主力ライフルとして使われつづけた。SMLEライフルは第一次大戦期間だけでも400万丁以上生産されたと言われ、たとえ40年たっていても使えるSMLEライフルは多かった。ライフルの寿命は銃身の寿命がきたらそうなると思って間違いはないが、ライフルの銃身寿命はその国の冶金技術や銃自体の銃身肉厚で違ってはくるが、だいたい1万発ぐらいが目安だった。機関銃ならばあっという間だが、1発1発ずつのボルトアクションライフルは1万発射撃達成前に自分が戦死するか戦争が終わるだろう。実際に2003年のイラク戦争ではイラクの民衆がGew98で武装していた例もあった。そのため、第二次大戦では主力で使われたのだろう。あとの理由としてNo.4ライフルと性能的に大差がなく、余剰在庫品を使ってしまおうという発想もあったかもしれない。

 第二次大戦後、すぐに交換してしかるべきだった。イギリス軍はライフルの自動化を行ったにもかかわらず、アメリカが使用弾薬統一問題で横槍を入れたために、イギリス軍の試作自動ライフルは製作中止となり、それはすぐには果たせなかった。イギリスが自動ライフルを装備したのは実に1957年のことだった。
 ちなみに、イギリス陸軍歩兵がフルオート可能なライフルを装備したのは実に1980年代になってからだった。



 SMLEライフルの外見的特徴として、銃身覆いの木が銃口付近まできていることがある。そのために似たり寄ったりな軍用ボルトアクションライフルの中でも比較的見分けが容易にできる。あとの外見的特徴としては弾倉が引き金前に出っ張っている点にある。これは着脱式ではなく固定式だが、これのおかげで10発という各国と比べたら数多い弾を入れられる。弾倉が出っ張っている理由は弾を数多く入れる他にも理由がある。当時のイギリス軍はリム(銃弾のしっぽ)が出っ張っている7.7mm×56R弾(.303ブリディッシュ)を採用していたが、リムが出っ張っているとどうしても銃弾を扇状に詰めこむしかないために弾倉を銃本体からはみ出させないと弾が数多く入らなかった。ちなみに、第一次大戦当時では主要参戦国でリム付き弾を採用していたのはフランスやロシア(帝政ロシア)があった。フランスではリム付き弾のせいでライフルに3発しか弾が入らず、また、モーゼルライフルのように板状クリップを使って押しこむとリムが邪魔してうまく入らないために、M1ガーランドライフルみたいな特殊なクリップを使って装填していた。SMLEライフルではクリップまでは弾倉には押しこまなかったが普通の板状クリップではなく、コの時の特殊クリップを使って押しこんだ。ちなみに5発クリップなので2回やる必要がある。きっちりとクリップに収める必要があり、また装填の際も注意しないと上手く入らなかった。自分はSMLEライフルの装填をしたことがないが、リム付き弾薬だからモーゼル式に比べたら手間がかかるのだろうから、10発装填の特典も5発のモーゼルと比較してもさほどの利点にはならなかったのかもしれない。
 
 SMLEライフルのボルト閉鎖機構はモーゼル式には違いないが、モーゼルGew98と違う点は、ロッキングラグ(銃本体とボルトをガッチリ固定する閂(かんぬき)のようなもの)の位置にあった。モーゼルGew98はロッキングラグがボルト前方にあったが、SMLEライフルはボルト後方にあった。後方に位置する利点といえば、ボルト操作のストロークが短くできるため連射しても疲れにくい点や、ボルト閉鎖する時、ボルトを回して固定させるための傾斜をゆるやかにできる点がある。特に後者はボルト操作時に余計な負担がかからず、油がなくても比較的スムーズにボルト操作ができた。欠点はボルト前方にガタがくるので命中精度が悪くなる点にあった。SMLEライフルはボルトを重くして可能な限りガタがこないようにはしているが、それでも命中精度は多少は劣ったという。実際、イギリス軍兵士内で、この銃の命中精度の評判は悪いと言われている。ただ、何と比較して命中精度が悪いといっているかがわからない。実際には諸外国のボルトアクションライフルと比較しても決定的に命中精度は悪くなかったはずである。ちなみにイギリス陸軍では歩兵には1発必中の確実な射撃よりも素早い射撃を要求していたので、さほど問題でもなかったのだろう。素早い射撃という点ではストロークが短いというのは大きな利点だったと言える。また、ストロークの短さはたとえば照準しながらのボルト操作で眼前にボルトがくる圧迫感から多少は解放されるという心理的利点もあった。しかしながら、しつこく言うがこれら利点欠点は諸外国のライフルと比較しても決定的な差とは言えなかったのが実情だった。

 SMLEライフルが諸外国のライフルと違った特徴があった点といえば、マガジンカットオフ機構があったという所だろう。マガジンカットオフ機構というのは、ボルト操作をしても薬室(銃弾を入れて発射スタンバイ状態にするところ)に次弾が入らないようになる仕組みで、さほど意味がない機構とも思えるだろうが、たとえば戦闘が終わって移動するときとか、薬室に弾があるとたとえ安全装置をかけていても心理的に不安だし、弾を全部抜くのもめんどくさいし、不意に敵と遭遇したら困るから、マガジンカットオフ機構を使ってボルト操作をすれば弾倉には銃弾があって薬室には銃弾がないという安全状態で銃を持ち運べる。敵に遭遇すれば1回ボルト操作をすればいいのだから、結構便利な機構だと思える。ただ、他国で真似されていない点を見ると、やはりあまり意味がなかったのだろうか?。ちなみに後に省力化がなされると、この機構はいの一番に省略された。

 その他、外見的な特徴といえば、スリングスイベルが銃床部分と銃身下にあるのは他国のライフルと同じだが、SMLEライフルはなぜか銃身下に2つあり、1つは銃剣取付装置の後ろと、もう1つは銃身真ん中の下あたりにあった。この意図はよくわからない。