L96A1
性能:

全長      1124mm
銃身長     603mm
重量      6.50kg
使用弾薬 7.62mm×51
装弾数       10

左絵はレッティーヌさんからいただきました。
ほんとにありがとうございます
≦(_ _)≧
 火縄銃のような滑腔銃(ライフリングがない銃身をもつ銃)からライフル銃が派生したのは17世紀頃とされる。当時の火縄銃の有効射程は50mほどで、ライフル銃のそれは1620年のデータで150ヤード(137mほど)という記録がある。当時から命中精度の良さは知られており、実際、アメリカ独立戦争ではアメリカ軍がライフル銃でイギリス派遣軍をなんとか撃退して独立を勝ち取った例もあった。

 当時のライフル銃は滑腔銃と比べて弾込めの時間が倍かかったので、アメリカ独立戦争で有効性が実証されてもライフル銃がすぐに主力とはならなかった。ただ、命中精度がよく射程も長いのだからこれを狙撃用に用いようと考えるのは当然の道理で、狙撃という行為が戦闘に用いられた最初の事例はアメリカの南北戦争だったと言われている。
 南北戦争以降、19世紀末には無縁火薬と金属薬莢と雷管をプラスした新型薬莢の完成で、滑腔銃は駆逐されライフル銃が歩兵用装備の主力となった。

 話は前後するが、19世紀初頭までの戦闘は、陣形を組んで射撃戦を行うのが一般的で、狙撃ではなく、上官の命令で相手の陣に向かっての射撃が一般的だった。つまり特定の兵士を狙うのではなく敵の集団を狙った。ライフル銃に変わった直後でも基本的にそれは変わらなかった。無縁火薬とボクサー弾薬を組み合わせた銃弾を使ったライフルは飛ばすだけなら4kmは飛ばせた。つまり射撃戦を行う距離が飛躍的に伸びたことになる。この時点での歩兵用ライフルは先に書いたように集団を狙うのだから1km先の敵の集団を大雑把に狙えれば良かった。1人ならば点にしか見えないが、集団であれば1km先でも十分見える。19世紀末および20世紀初頭に作られた歩兵用ライフルの照門のレンジが2000mもあるのは決して不条理ではなかった。
 
 上で書いたように狙撃という行為はアメリカの南北戦争から行われていたといわれるが、スコープをつけたライフルでの狙撃は第一次大戦が最初だと言われる。たしかに、膠着した塹壕戦で頭を出した敵兵を狙撃するのは効果があった。この狙撃対策でフランスでは塹壕に篭ったまま射撃が可能な塹壕用ライフルも作られた。実際には役に立たなかったが作らざるを得ないほど狙撃が脅威だったのだろうか。
 第二次大戦でも狙撃という戦術は有効だった。実際、ドイツでは狙撃章という勲章も制定された。第二次大戦以降も戦争の常として狙撃行為は行われる。新しい所ではイラクで警戒任務中のアメリカ軍兵士を狙撃するテロリストがその画像をインターネット上で流している。この狙撃は殺傷目的よりもコマーシャルの意味合いが強いのだろう。

 さて、第二次大戦までの狙撃ライフルは基本的に歩兵用ライフルと同一だった。大雑把にいえば歩兵用ライフルにスコープを付けたものと考えればいい。厳密にいえば、そのライフルは精度がいいのを選りすぐったし、スコープも、ただ乗せただけではなく、どうも製造段階で固定して調整してから戦場に送ったようで、ドイツのKar98Kの狙撃型の現存するのを見ると、機関部にスコープをつけた状態で送っていたらしい。
 ただ、見た目的にも操作的にも歩兵用ライフルと同一だったため、いろいろな不都合が生じた。まず、既存のライフルはスコープを乗せる前提ではないために装着するといろいろ操作に不都合が生じた。まず、当時のライフルは弾込めが例外なく上から装填していた。つまりスコープを上に装着すると装填できないことはないにせよ込めるにに時間がかかった。スコープを銃の真上ではなく斜め上にするか前にずらせばいいという問題でもなかった。斜め上にすれば距離による補正が大変だし、だいいち覗く位置が正規照準と異なるので射撃姿勢が崩れた。前にずらすとスコープが見づらいし、そもそも専用のものを作らないとピントが合わない。ただ、狙撃手にしてみればささやかな不都合だったようで、狙撃手は各国で大活躍した。

 第二次大戦後、交戦距離が短いのに歩兵用ライフルの威力が無駄に大きいということで小口径の突撃ライフルが一般化していった。そんな中でも狙撃ライフルは必要とされた。第二次大戦までは歩兵用ライフルと狙撃ライフルは同一ではあったが、ここにきて区別化された。第二次大戦直後の狙撃ライフルは大体の場合は第二次大戦期に使われた歩兵用ライフルがそのまま使われたが、時代が進むと基本的に狙撃目的で作られていないので不都合がさらに出てきたし、そもそもどんな優秀なライフルでも老朽化は避けられない。スコープを乗せて狙撃するライフルを専用に作った方がいいと考えるのは当然の理でもあった。

 
 イギリス陸軍の狙撃ライフルは1942年に制式化されたSMLEライフルNo.4 MK1(T)が専用の狙撃ライフルとして最初に採用された。見た目的にも性能的にも既存のSMLE No.4ライフルにスコープ・スコープ用台座・チークピース(頬当て)を付けたもので、これは他国の狙撃ライフルと変わらなかった。第二次大戦が終わっても、この狙撃ライフルは使われ続けた。

 1950年代になって、アメリカの主導によりNATO軍の歩兵用ライフル銃弾が7.62mm×51弾(.308ウィンチェスター)に決定すると、イギリス軍でもその変更に迫られた。イギリス軍では歩兵用ライフルをFAL自動ライフルに変更し、狙撃ライフルも7.62mm×51弾を使用したL42A1狙撃ライフルに変更した。このL42A1狙撃ライフルは前のNo.4 MK1(T)と比較した場合、銃床の前部分が大きく切除され、着剣装置も省かれたため、外見上ではかなり変わっている。ただ、機関部は銃弾変更による部分以外は大差ないと言ってもいい。細かい点を言えば、使用銃弾が変わったので、弾倉の形状が少し変わっている。
 
 このL42A1狙撃ライフルは1990年代までそのまま使われ続けた。その間にイギリスではフォークランド紛争を含め、いくつかの紛争があり、その紛争のたびに活躍したとされる。その間のイギリスの戦いは不正規戦が多く、狙撃ライフルの絶好の活躍の場が多かったと言える。
 ただ、多くの戦いを経験するにつれ、さすがに原型が19世紀のライフルだと旧式化が目立つようになった。銃の機関部は大丈夫でも銃身は射撃の度に削れるのだからガタがきたといったほうが正解かもしれない。

 イギリス陸軍はフォークランド紛争が終わった頃から新しい狙撃ライフルを求めた。イギリスのメーカーのアキュラシー・インターナショナル社とパーカー・ホール社の狙撃ライフルがテストされた。一説には他国のライフルも比較検討と称してトライアルに参加したとされる。結果的にアキュラシー・インターナショナル社の製品(PM歩兵用ライフル)が総合的に優れていると判断され1984年に正式採用された。一説には命中精度ではパーカー・ホール社がトライアルに提出したM85の方が命中精度が上だったという話もある。たしかにM85は民間用でも販売しており評価は高いが、重量が14kgと重機関銃なみの重量なのでそこがネックになったと考えられる。
 余談になるが、あまりおおっぴらに公表しなかったこともあってか、情報があまり伝わらず、当時の日本の銃器雑誌の一部にはトライアルは1987年頃まで続けられて、次期狙撃ライフルにはパーカー・ホール社のM85が採用されたと報じた所もあった。


 このPM歩兵用ライフルがL96A1という名称で採用されたが、独創的な特徴がいくつもある。
 まずは外見。ボルトアクションライフルにしては珍しく銃床が一直線になっている。ほぼ四角形状の銃床にサムホール(親指を入れる穴)があいている。この方法は独立グリップのライフル所有が原則できない日本でよく見る形状だが、これがはしりなのだろうか。銃床の頬があたる部分はなぜか真っ平になっており、人によっては「○○○ヤードの距離だと○クリック修正する」というような一覧表を書いている人もいる。
 銃床のバットプレートは可動式で射手によって調整が可能となっている。今でこそ当たり前だが、当時としては珍しかった。あと、チークピース(頬当て)がない。もとより狙撃ライフルとしてスコープでの照準を前提としているために当然とも言えるが、それを前提としているライフルでもチークピースを装備している機種は多い。それだからか、正式装備ではないと思われるチークピースが付いているL96A1を見かけることはある。個人的に装備しているのだろうか。
 外見的特長の1つにボルトハンドルが後ろに曲げてあるという点もこのL96A1の特徴的な1つでもある。なにがしの理由があるのだろうが、なぜこのような形状にしたかはよくわからない。
 銃床の先端部付近に2脚(バイポット)がついている。この2脚は高さ調節が可能で射手や場所によって変更が可能となっている。これは委託射撃という点では有利であるが、人のよっては「命中精度が落ちる」と懸念する人もいる。そういう理由ではないだろうが、訓練射撃の際に手製の3脚を作ってそこに毛布を敷いて座った状態で委託射撃をする人も見かける。
 スコープは専用の6×42スコープを備えている。6×42の意味は、6倍の対物レンズが42mmというもので、倍率が高いほど物体が大きく見えるし、対物レンズが大きいほど明るく見える。ただ、倍率が高すぎてもいけないし(少し銃を振っただけで対象物を見失うし、見失わなくても少し動かすとおもいっきりズレる)対物レンズが大きすぎると銃に装着ができなくなってしまう。狙撃ライフルとしてはベストな選択だと言える。
 
 L96A1の銃床はいわゆるモナカ構造をしている。ようは左右別々で作って製作時にくっつけるというものだが、そうした理由はその中央部にアルミ合金のフレームを入れており、このフレームを機関部および銃身とくっつけている。そこまでややこしい構造にしたのは銃身を銃床とくっつけないようにするためにこういう製造方法をとっている。なぜこのようにするかというと、かつては銃床と銃身が固定されていたほうが命中精度が良いとされてきたが、最近の射撃実験では少しは離していたほうが命中精度がいいということが分かったためにこうしている。銃身と銃床はだいたい「厚紙1枚分」離れていたほうがよいとされる。このL96A1もだいたいそれぐらい離れている。

 L96A1は上で書いたように1984年にイギリス軍に採用されたが配備は1980年代後半までずれ込んだ。前のL42A1が制式装備を外されたのが1992年4月だからそれまでには十分に配備が行き渡ったと考えられる。狙撃ライフルとしては成功した部類で、スウェーデンとドイツでも採用された。バリエーションとして折りたたみ式銃床を備えたタイプがある。また、特殊部隊用にサイレンサーを装着した型もあるとされる。


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