ワルサーWA2000
性能:

全長      905mm
銃身長     650mm
重量      7.90kg
使用弾薬 7.62mm×51
装弾数       6

写真はAndy太郎さんからいただきました。ほんとにありがとうございます
≦(_ _)≧
 狙撃兵というのが存在しだしたのは南北戦争の頃からだと言われている。組織的に運用がなされたのは第一次大戦からだった。膠着した塹壕戦では不意に頭を出して状況をうかがう敵兵にたいしての狙撃は非常に有効だった。無論それで前線突破などはできるはずもなく、何十万の敵味方が対峙している状況ではあまり戦略的に有効だったとは言いがたい。ただ、前線の兵士の士気を削いだのは事実だった。第二次大戦でも、防衛側に回った国では狙撃兵を有効に使っていた。たとえば、東部戦線では敵の進撃が早く対応策が追いつかない状況だと、狙撃兵をその場所に残留させて、敵の伝令や高級将校を狙い撃ちして少しでも敵の進撃を遅らせるようにしていた。戦術面からみればそれなりに有効な手段だったといえる。特に地形が複雑な市街戦では、狙撃兵の存在自体が敵兵には脅威だった。

 我々民間人が「狙撃」という言葉を一般に聞くようになったのは戦後だった。しかしそれは戦争ではなかった。特に知られているのはケネディ大統領暗殺事件の事だろう。特に頻繁にテレビなどで狙撃ライフルが登場するようになったのは対テロ部隊などの特殊部隊だろう。テロ攻撃にさらされていたイギリスでは1960年代あたりからSAS(スペシャル・エア・サービス・・・陸軍特殊空挺部隊)のメンバーを特別に対テロ部隊に仕立て上げて大戦果を上げた例もある。しかし、各国が対テロ部隊に本腰を入れる大事件が起こった。

 1972年9月。西ドイツ(当時)で開催されていたミュンヘンオリンピックで、チュニジアに本部を置く「ブラック・セプテンバー」と呼ばれるパレスチナテロ組織がオリンピック村にいたイスラエル選手団9名を人質にした(オリンピック村襲撃時に2名を殺害)。テロリスト人質と一緒にがフェルスデンフェルトブルック空軍基地に到着した際、空軍基地には警察の狙撃隊員が待機し、いつでも発砲の準備を整えていた。狙撃するチャンスはいくらでもあった。ただ、それまでただの的しか撃ったことのない警官ではいきなり生身の人間を撃て!というのは酷だった。反撃もしてこない、血も流さない紙の標的ならいくらでも撃てるし、狙った所に確実に命中させる自信は十二分にあったろう。ただ、今回は違う。相手は撃ち返してくるし、銃弾を当てれば血を流しもがき苦しむ。なかなか引き金を引く事ができなかった。また、撃ったとしても、そんな緊張感が体中に蔓延している警察狙撃隊員が当てられる筈もなかった。特に配備されていた狙撃ライフルはボルトアクションで、1発撃ったらボルトを90°回して引いて押して90°まわすという動作が必要で、外した場合のプレッシャーは相当なものがあったろう。結果、狙撃に失敗し、テロリストと警官の激しい銃撃戦の末、何人もの警察官がテロリストの銃弾に倒れ、もはや進退極まったテロリストは覚悟を決め、持っていた手榴弾で自爆した。この時に人質9人は全員死亡した。この事件の後に、イスラエルはレバノンに懲罰侵攻を行なった。この侵攻がが間接的に翌年の第4次中東戦争を招いたといえるし、この時にアラブ諸国が実施したいわゆる石油戦略は各国の経済を混乱させた。昭和49年の日本のオイルショックによるトイレットペーパーの買占め事件も例外ではない。

 話は戻して、この事件以降、西ドイツ政府は即座に対テロ特殊部隊「GSG-9」を編成した。GSG-9とはベタ訳せば「第9国境守備隊」となる。国境守備隊が母体とはなっているからこの名前があるが、実際のところは対テロ専門部隊となっている。実際、対テロ部隊用では1から8までの番号の特殊部隊はない。GSG-9の華々しい戦果は、1977年10月13日にハイジャクされたルフトハンザ航空の突入作戦で(突入は4日後の17日に行なわれた)、ソマリア空港に緊急着陸させられた機体に、迅速な突入を行いテロリスト3名射殺、1名重傷の銃撃戦を展開したが、人質は全員無事、GSG-9隊員にも負傷者がない大成功をおさめた。あといくつかあるが、ここは特殊部隊をどうこう語る所ではないのでここまでにしたい。

 さて、狙撃ライフルでもミュンヘン・オリンピック村事件の教訓を元に新規の狙撃ライフルが提案されるようになった。特にボルトアクションでは1発目を外した時のリスクが大きく、狙撃ライフルの自動化を要求したのだった。それに答えた1社がワルサー社だった。ワルサー社といえば、多くの人はワルサーP38を思い出すかもしれない。ライフル関係ではあまり名前が有名ではないが、第二次大戦中にはセミオートの狙撃用自動ライフルのGew41(W)を作ってもいるから全くの素人というわけでもなかった。自動ライフルはボルトアクションライフルに比べて、命中精度が劣るという欠点がある。理由は自動で薬莢を排莢しなければいけないので、薬室がキッチリと造れない。薬莢は射撃時にその気圧で多少なりとも膨らむ。手で排莢するボルトアクションならいいけども、自動ライフルだと、膨らんでしまって薬莢を引きぬけず作動不良になる可能性が高い。そのため多少のクリアランスが必要となる。またガス作動式の場合が顕著だが、発射ガス(エネルギー)をボルト後退用に割く必要があるので、ガスポートの位置によってはその力があらぬ方向にいってしまう場合もある。ワルサー社ではこういう問題をどうにかして解決し、バレル延長による銃本体の全長増加を防ぐためにブルパップ式にして、西ドイツ軍に提出してみせた。ただ、致命的な欠点があった。値段が高すぎたのだった。特に平時の軍隊では予算が決まっているので、その予算内で一定数を整える必要がある以上、いくら高性能でも高い兵器の装備は二の足を踏んだ。結局正式に配備される事はなかった。

 ワルサーWA2000の最大の特徴はブルパップ式であるという事である。ブルパップ式の歩兵用ライフルならステアーAUGやFAMASなど各国で散見するが、狙撃ライフルになるとそうは見かけない。イスラエルにサルデウス-25というM14ライフルをベースに造られたブルパップ式狙撃ライフルがあるというが詳細は不明。ブルパップ式の利点は全長を抑える事ができるという点で、ようは弾倉がグリップの前ではなく後ろにくるので銃身長はそのままでも単純に全長は短くなる。また、セミオートではメリットではないが、機関部(ボルトなどの動く部分)がグリップを持つ手と肩の間にくるのでフルオート時のコントロールの容易さもあげられる。欠点としては、排莢口がどうしても頬の部分にくるので右利き専用の銃の場合は左利きの人は無理してでも右手保持が必要になってくる。排薬莢が自分に当たってしまうからである。もっともこれは排莢口を切り替えられる装置を使えば問題はない。また、全長が単純に短くなるのでオープンサイトでは照準線が長くとれないといった欠点もある。両方とも狙撃ライフルとしてはさほど問題はないだろう。なぜなら狙撃手は特殊の人がなるから歩兵用ライフルみたいに左利きの兵士のことまでは考えなくていいだろうし、照準線が短いのもどうせ狙撃ライフルはスコープを付けるからである(無論、スコープが壊れたときの緊急時にオープンサイトは必要になってくるが)。

 ライバルのPSG-1と比較すると、銃身長は全く同じなのに、全長は300mmも(正確には303mm)短い。全長が短いという事は持ち運ぶのに小さなスペースですみ、また狙撃する時に目立ちにくいという利点がある。ただし、このWA2000はコンパクトというよりはあきらかにごっつい(笑)。重量も弾込めて8キロ超えるから、PSG-1と大差ないといえばそれまでではあるが・・・。もっとも狙撃の場合は反動を抑えるには銃の重量があるという事はかなり役立っているだろうし、どうせ機動戦には使わないのだから、これで十分なのかもしれない。

↑WA2000の後期型。フラッシュハイダーの形状の違いと、グリップ形状の違いに注目。
 狙撃専用なので、トリガープル(引きがねを引く力)を1.2kg〜1.5kgの間で調節できる。ただし、チークピースとバットプレートは銃の構造上固定式である。この点はPSG-1が可動調節できる点と比べれば劣るのは否めない。余談になるが、トリガープルは1.2kgというのは、軍用では適当な数字だろうが、射撃競技だとこれでも重い。どんどん軽く軽くしている。実際、18gぐらいにしている人もいるそうだが、これ以下にはできない。理由は簡単でこれ以下にすると銃を上に向けた際にトリガーの自重で発射されてしまうから(^^;)。ただ、競技をやっている人の話だとそれでも撃っていると重く感じていくそうな。ほんと余談でした≦(_ _)≧。

 WA2000は前期型と後期型の2つに分けられる。上の写真が前期型で右の写真のが後期型。後期型はM14自動ライフルみたいなハイダーがつけられているのが特徴だが、やはり、マズルフラッシュが凄かったのだろうか?。あとの違いとして、グリップ部分が細身から多少肉厚になった点と銃の最後尾に下への出っ張りが追加されている。この出っ張りの使用用途はよくわからない。
 ちなみに、両方合わせて154丁しか生産されていない。営業的には失敗の部類に入るだろう。直接的原因は値段が高いのと、持って歩くのがどう考えても大変だという事だろうが、やはり奇抜なデザインがウケなかったというのも原因の1つなのだろう。


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