MP7(MP7A1)
性能:

全長       340mm
(ストック伸長時541mm)
銃身長      178mm
重量       1.6kg
使用弾薬  4.6mm×30
装弾数   15・20・40
連射速度   850発/分
初速     725m/s

左の絵は自作です。
MP7A1の前のMP7を描いています。
ストック部分がMP7A1と比べて分厚いのが
特徴です。
 第二次大戦が終わってからは軍用の短機関銃は急速に廃れた。一番の理由は突撃ライフルが一般化して、威力あ拳銃よりも多少マシな程度の短機関銃はお呼びがかからなくなったからで、特に小口径化が一般化すると銃の全長を短くすることができたために、その流れが加速した。軍用の短機関銃はイスラエルのUZI短機関銃の例を除いて、だいたいが戦車兵の護身用で使われてきたが、その護身用にしても小口径のカービン型が登場するとそれに切り替わっていった例も多い。使う側にすれば全長・重量が極端に違わないならば威力がある方がいいに決まっているし、軍の上層部にすれば歩兵が使うライフルと同一の弾薬を使う事は補給面からも好ましく、この面では両者の求める物が合致したと言えた。

 ただ、警察用の短機関銃は第二次大戦後も使われた。アメリカのSWATでは突撃ライフルであるM16が登場するとそれに装備を切り替えた時期もあり短機関銃は完全に廃れるかにみえた。
 しかし、威力があるのはいい事であると警察・警備で使用する側からすれば必ずしもそうとは言えなかった。軍用ライフルならば200mぐらい先の目標(ようは敵兵)を狙って撃って殺すのが目的で、当然ながら銃自体もそのへんの距離での威力を重要視するのだが、警察の場合はそんな距離で狙い撃つことはまずしない。狙撃目的でも100mを超えることはまずない。軍用突撃ライフルの威力ある銃器で、近距離の犯人を撃った場合、銃弾が貫通して背後の民間人に当たる事がないかと懸念された。また、不必要に威力があるとたとえば部屋で射撃して壁を貫通して関係ない人間を殺傷する危険性もおおいにあった。
 そのためにSWATでは西ドイツ(当時)にあるH&K社のMP5短機関銃が採用された。拳銃弾使用しているので威力はさほどなく、またクローズドボルトを採用しているし閉鎖機構もちゃんとあるので命中精度が高いこともあり瞬く間にアメリカの多くのSWATで採用されていき諸外国も採用していく国も多かった。

 ただ、時代が進むと別の問題が出てくるようになった。NASAがケプラー素材やスペクトラ素材を開発して、それが宇宙用だけではなく防弾ベスト用として出回ると普通の拳銃弾では貫通できなくなった。
 なぜ宇宙関係のNASAが防弾ベスト用素材を開発したのかは説明がいるだろう。当然だがNASAは銃の撃ち合いを前提に開発したのではなく、宇宙空間に漂うゴミが宇宙飛行士に当たっても問題がないように開発している。ゴミとは隕石クズなどもあるが、大半は廃棄された人工衛星によるもので、今までに約5000基ほどが打ち上げられた人工衛星だがその95%はもう使われておらず宇宙空間をさまよっている。その廃棄された人工衛星同士がぶつかってゴミをさらに増やし続けている。中には大気圏に突入して流星として観測されるものもあるが、大半は地球圏内を漂っている。漂っているという表現には語弊があるが、実際には7.9km/sという超高速で地球を回っている。それに宇宙飛行士がぶつかったらどうなるかは想像ができるだろう。そのためにNASAは防弾ベストのようなのを開発した。

 それが軍用に転用されたわけだが、最初に使われたのはベトナム戦争期である1960年代中頃でこの頃は砲弾の破片を防ぐのが目的でありライフル弾は防げなかった。たしかに戦争での死傷原因の半分以上は砲弾・爆弾による破片だからそれでも問題がなかったしこの当時の技術ではライフル弾を防ぐ防弾ベストは作れなかった。ちなみに、ほぼ同時期にアポロ計画で月にいった宇宙飛行士用の宇宙服ならライフル弾は完全に防げたが、この宇宙服は重量が約80kgほどあり、普通に考えても実戦では使えないのだから仕方がなかったのだろう。
 しかし、技術の進歩は目覚しく、今の兵士が装備する防弾ベストは特殊な鉄板を仕込めばライフル弾でも十分防げるようになった。実際、イラク戦争後にイラクに駐留するアメリカ軍兵士がテロ組織にライフルで(どんなライフルかは不明)狙撃されて命中したにもかかわらずその兵士は倒れてもすぐに立ち上がって物陰に隠れるという映像もある。

 ただ、ここまでの重装備は世界一装備がいいアメリカ軍やイスラエル軍ぐらいなものではあるが、装備できるようになった理由は、数が作られだしたために防弾ベストも安価になって数が揃えら得るようになったという点もある。今の日本ではライフル弾を防ぐ防弾ベストは売られていないし買い手もないが、拳銃弾用の防弾ベストは市販されている。.38スペシャル・9mmパラ用と、.44マグナム・7.62mmトカレフ用では値段は違うが前者用の防弾ベストは10万円も出せば買える。
 回りくどくなったが、ようは防弾ベストが世界中に出回るようになって、それをテロリストが使わないとはいえなくなった。テロリストは金を奪う目的で行動を起こさないし、だいいち金自体は後援組織が支援する。防弾ベストの使用は十分に考えられた。

 1990年代になるとソビエトの崩壊もあり兵器類の開発も大きく様変わりした。ステルス爆撃機B-2スピリットも注文数が激減したし、アメリカ海軍が計画したステルス攻撃機のA-12アベンジャー2も開発中止となった。もはや戦争は大規模なものからテロやゲリラ戦といった小規模な戦いが広範囲に起こりえると考えられるようになった。
 この頃にNATO軍ではPDW(Personal Defense Weapon・・・個人防衛火器)というジャンルの銃を要求するようになった。PDWというのは広義にいえば拳銃なども該当するのだが、戦場における拳銃はほとんど効果がなく、敵よりも(誤射で)味方が多くやられるとまで揶揄もされた。拳銃は扱いが非常に難しく、咄嗟に狙って撃つのは結構難しい。不意に襲われて拳銃を近距離で射撃したが外した例はいくらでもある。結果的に短機関銃ということになる。
 短機関銃は基本的に拳銃弾をそのまま使用するので威力の面でいえば拳銃とほぼ同一となる。厳密にいえば銃身長の違いから短機関銃の方が若干上となるが実用上では同じといってもいいだろう。そのために上で書いたように防弾ベストを相手が装着したら効果がなくなるという点も指摘された。
 そのためにNATO軍の要求ではケプラー素材20枚ほど+1.6tチタン鋼(tはmmを現す工業用語)の板数枚で構成されるCRISAT防弾ベストを200mの距離で貫通できることを1つの目標とした。

 この要求にもっとも早く応えたのがベルギーのFN社だった。数年前にFN社ではP.90短機関銃を完成させておりそれがこの要求に適うものだった。使用する弾薬である5.7mm×28弾はたしかに初速が早く、FN社では200mの距離においてもケプラー素材の防弾ベストを撃ち抜くと主張している。対してドイツのH&K(ヘッケラー&コッホ)社ではこのような短機関銃は開発しておらず、だからといって営業上提出しないのは不味いので同社のMP5短機関銃のバリエーションであるMP5Kに折りたたみストックを付けたMP5K-PDWを急いで製作し提出した。H&K社の主張では銃弾をTHV弾等の貫徹性が高い銃弾に変えれば十分な貫通能力が期待できるとしたが、誰の目から見ても、無論H&K社本人からも間に合わせ的なものとしか見られなかった。かくしてH&K社は新しい短機関銃を開発することになった。

 後にMP7と命名される本銃は1999年に公表された。銃の素材はカーボンファイバーを混ぜたプラスチック素材をベースにしている。作動方式は同社のMP5のようなローラーロッキングではなく、ガス作動方式を採用している。閉鎖機構はロータリーボルトロッキング方式でどうも同社のG36突撃ライフルを参考にしているらしい。作動方式に関していえば手堅い方法を取ったと言える。
 独創的なのは銃弾を新規に開発した点で、これは後に説明を譲るとして他の独創的な点は銃自体の形状だった。弾倉をグリップ(銃把)に収める点はUZI短機関銃などに前例があるので目新しくはないが、1970年代以降はほとんど用いられなかった方法であるためにその点では注目されるだろう。折りたたみ式フォアグリップ、銃の上にダットサイトなどを取り付けるためのレールも標準搭載であり、折りたたみ式ストックも付けられた。ちなみにこの時点では軍制式にはあるグリップの滑り止めがなかった。細かい点をいえばボルトリリースもなかったし引き金(トリガー)にグロック方式のセフティもなかったし、レールも銃全体にあるものではなく短いものだった。ちなみに、上のイラストはこの初期型を描いている。

 2000年には、将来の発展を望んでドイツ軍によって仮制式となり正式にMP7と命名された。この時にいくつかの小改良が施されている。
 グリップには滑り止めが追加され、レールがほぼ銃全体に施され引き金の上にはアンビ(左右から操作できる事)のボルトリリースが付けられた。ボルトリリースが付けられる前までは、弾倉を入れ替えた際にコッキングレバーを操作する必要があったがそれが不要になった。ちなみに、ボルトリリースがアンビの銃は銃器史上MP7が最初である。他にも細かい点であるがフォアグリップのロックも左右から操作できるようになった。改良前は銃の右にしかついておらず咄嗟にはやりにくいものだった。

 ドイツ軍で試験運用しているうちに発射速度が速いという指摘があった。MP7短機関銃の発射速度は毎分950発〜1050発だったがこれを落とすことがH&K社の課題となった。H&K社ではボルトのストロークを長くして発射速度を落とす方法が採用された。ストロークを長くすることはすなわち機関部を長くすればいいわけだが、それは全長が長くなる事を意味した。それを避けるためにストック部分の厚みを薄くしてなんとか全長を変えずに機関部を延長して発射速度を毎分850発に押さえることができた。この型は外見的にも変わってしまったためにMP7A1と制式名も変更になった。

 ほぼ完成の域に達した感があるMP7A1短機関銃であるが、その配備先は新鋭短機関銃ということもあってまだ多くはない。2004年にドイツ連邦軍に正式に採用されているが、その数は決して多くはなくその数から推定するに特殊部隊に配属されていると考えられる。また、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンでは駐在しているNATO軍の警護官がMP7A1を持っているのが映像で確認ができるので、本来の目的にも使用されているのが分かる。一説にはアメリカ海兵隊のヘリ搭乗員の護身用に配備されているとも言われている。H&K社が世界中の関係機関に大々的に売り込みをかけているのは無論である。



 MP7A1短機関銃は上の説明でも銃自体の説明には触れているが、特徴はやはりPDWに要求されるアンビ性がかなりあるという事だろう。コッキングハンドルはアメリカのM16突撃ライフルのような形状をしている。ど真ん中にあるので左右両方の手でも操作性は同一となっている。ボルトリリースレバーやセレクター兼セフティレバーもアンビだが、唯一違うのは排莢口が銃の右にあるという点だろう。これは弾倉がグリップにある関係上、下にはできないし、当然上にも設けられないのでいたし方がないのだろう。排莢口の後ろにはリフレクターがあって射手に薬莢が飛ぶのを防いでいるので左利きの射手でも安全には撃てる。

 MP7A1短機関銃の最大の特徴は使用する銃弾にある。今までのように既存の銃弾を使って銃器を開発するのではなく銃弾も一緒に開発した点にある。普通は既存の銃弾をベースにして開発を行う。たとえば小口径高速弾を世界に先駆けて採用したアメリカのM16突撃ライフルは銃弾自体は1950年のレミントン社で開発された.222レミントン弾をベースに開発している。MP7A1の使用銃弾は4.6mm×30弾であるが、これは過去にスペインのセトメ社と共同開発していた4.6mm×36弾がベースになっていると言われている。あと、H&K社では(不採用にはなったものの)G11突撃ライフルの4.73mm弾のデータも所有しており、これも大いに活用されたと考えられる。実際の製造は開発時点でのH&K社の親会社だった、イギリスのロイヤル・オーディナンス社が行った。グリップに弾倉を入れた際に無理なくグリップを握られるように設計できる銃弾の最高長は38.5mmとされそこから高初速が得られる薬莢長など、いろいろ薬莢長と弾頭長および口径が決定されていき、試行錯誤の上最終的に4.6mm×30弾は作られた。ちなみに、薬莢長は前述のように「30」とあるので30mmと言われているが、実際には1.2インチで製作されているので、厳密にいえば30.48mmとなる。多くの書籍で「実測は30.5mm」と書かれているのもこれが理由である。

 4.6mm×30弾は小さいイメージを受ける。実際に小さいがライバルであるP90の5.7mm×28弾と比較した場合、弾頭はたしかに小さいが薬莢の太さはそう変わらない。これはネックをきつくしているからで、これが装薬をかなりの量入られれる要素となっている。逆にいえば5.7mm×28弾のネックがあまりきつくしていないと言えなくはない。
 実射データでは4.6mm×30弾の初速は弾頭重量1.7gで724.8m/sとなっており、5.7mm×28弾は2.0gの弾頭で715m/sとなっている(カタログデータより)。銃身長の違いもあるが(MP7A1は178mm、P90は262mm)数字データを見る限りP90の方が威力は上となる。この数字を見る限り、H&K社の言い分である「4.6mm×30弾はP90よりも威力が上」というのが嘘となるが、実際の所はそういう単純なものではないだろう。
 たしかに実射テストでは満足いく性能を発揮できた。さすがに当初目標であった「200m先のCRISATベストの貫通」はできなかったが、同距離でケプラーヘルメットは貫通できた。この実験では貫通できた事よりも200m先の点のようなヘルメットに当てられる事が命中精度の良さとして実証されて開発者も嬉しかったのではないだろうか。CRISATベストは50m先だと容易に貫通ができた。PDWの使用用途を考えればこれ以上の距離の交戦は滅多にないだろうからP90との優劣は別にして性能面では文句はないだろう。
 弾頭はいろいろなバリエーションがある。弾頭重量2.68gのFMJ弾頭は初速が600m/sと落ちるが交戦距離は300mにまで伸びると言われる。他にも各種弾頭を用意しており、貫通第一目的やストッピングパワー第一目的などを容易しているという。所詮は万能の銃弾など存在しないという事だろう。

 MP7A1の欠点もいくつかある。使用銃弾が特殊なので1発の値段が高い事。またアンビセフティレバーはフルオートモードにした場合、人差し指が干渉するのでそこに違和感がある事。MP7A1に限った欠点ではないがストックを畳んだ状態で射撃する場合、グリップを持つ手がストックに干渉してしまう事。また、重量面ではMP5-PDWの2.8kgから大きく減った1.6kgと重量面では大変軽くなり所有者の負担は大きく減ったが肝心の大きさはさほど小さくはなっておらず、コンシールド(隠して携帯する)の面からいえばこれでも大きいのではないかとも思える。


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