M36対戦車自走砲"ジャクソン"

全長:        7.47m
車体長:       ?.??m
全幅:        3.05m
全高:        3.19m
重量:         29.0t
装甲:    20〜76.2mm
乗員数:        5名
武装:50口径90mm砲×1
    12.7mm機関銃×1
動力:450馬力ガソリン
走行性能:最大速度:42km/h
       航続距離:250km
総生産台数:2324両
 第一次大戦の戦車の任務といえば、その防御力を生かした、塹壕の前線の突破・後方の撹乱だった。この作戦はイギリス軍で実施され、特に大量の戦車を用いた突破戦術は大成功を収めた事もあって、第二次大戦前までの戦車はだいたいがこの戦術用に設計された。ただ、エンジン技術の向上と、速度がトロいと砲撃のいい的になるので、速度だけは増加していった。そのあまりある機動力での前線の迅速な突破が求められた。対戦車戦は二の次で対戦車戦闘は、牽引式対戦車砲の任務だった。基本的にこの考えは戦車先進国のドイツでも例外ではなかった。
 第二次大戦初期の1940年5月の西部戦線では、特にドイツ軍を悩ませたのが、イギリスのマチルダ2歩兵戦車だった。最大装甲60mmで、当時のドイツ軍の大砲では88mm高射砲以外にその装甲を撃ち抜ける大砲はなかった。ここにドイツ軍は「対戦車戦闘用の戦車」を意識した戦車の開発を余儀なくされた。
 対して、アメリカはどうだったか?。アメリカの戦車運用は、やはり前線の突破用だった。ただ、対戦車戦闘に巻き込まれるのは必至だった。それに、アメリカには有力な牽引式対戦車砲がなかった。こうした事情からか、1941年12月に「敵戦車との戦闘を受け持つ部隊」として、戦車駆逐部隊が創設され、この部隊用の対戦車兵器が作られた。後にM10GMC(Gun Motor Carriage)と呼ばれた対戦車自走砲だった。重量軽減のため、装甲は薄く、天井すらなかった。ただ、高初速の76.2mm砲を搭載し、攻撃力だけは充分だったためか、前線では重宝がられた。初陣はアフリカ戦線だったけども、アフリカ戦末期にはドイツ軍もティーガー1重戦車を登場させた。最大装甲は120mmで、接近するか側面を狙わない限りは貫通不可能で、向こうは2000mの距離からもこっちを貫通できるのだから話にならない。結局は、ティーガー1重戦車の数が極端に少なかった事と、戦局が連合軍が圧倒的に優勢だった事もあり、アフリカからドイツ・イタリア枢軸軍を完全に駆逐した。しかし、大砲の威力不足は問題で、相手も装甲を増した戦車を投入するのは目にみえていたから、大砲の威力強化は愁眉の的となった。丁度、アメリカ軍には90mm高射砲が存在し、この威力は文句がなかった。そこでアメリカ陸軍はM10GMC(正確にはM4A3シャーマンの車体を使ったM10A1)の車体に90mm高射砲を戦車砲用に改造した大砲を乗せた対戦車自走砲を誕生させた。時に1943年12月。当初はT71と呼ばれた。とにかく、大威力の対戦車自走砲が欲しかったアメリカ軍は、制式採用前の1944年4月から量産につぐ量産を重ねた。あと何ヶ月かに実行される、フランスへの上陸作戦へ向けてであった。M36GMCと正式に命名されたのは1944年7月からだった。車体の構造はM10GMCと大差なく、違いといえば、砲塔後ろにバラスト代わりの砲弾庫がついかされただけで、装甲が薄いのはそのままで天井はガラ空きだった。しかし、その攻撃力は強力でティーガー1重戦車やパンター戦車といった強力なドイツ戦車群を真っ正面から撃破できた唯一の戦闘車両だったため、部隊からは重宝がられた。しかも、ティーガー1重戦車の上をゆくM26パーシングの開発が遅れた事もあり、その出番と期待は大きかったといえる。
 M36対戦車自走砲は誰となく「スラッガー」や「ジャクソン」というアダ名が付けられた。「スラッガー」は野球でいう長距離バッターでその活躍の程が窺い知れるというもの。ただ「ジャクソン」という名前の由来はよく分からない。生産は1945年一杯まで行われ行われ、生産数も2324両と、ドイツ重戦車に対抗するには充分なほどに生産がなされた。その後はM26パーシングにバトンタッチしてその姿を消した。「間に合わせ」兵器といわれればそれまでかもしれないが、アメリカ陸軍の対戦車戦力のギャップを見事に埋めた兵器とも言える。その評価がバラバラなのは致し方がない事だろう。

 M36対戦車自走砲の車体の特徴は砲塔装甲を薄くしてでも、オープントップにしてでも、旋回砲塔にこだわったという点にある。ドイツの対戦車自走砲や駆逐戦車は固定砲塔(「砲塔がない」といったほうが正解だけど)で、生産性を上げるのに重点を置いたのとは対照的だといえる。旋回砲塔装備にすると、単純に砲塔を別で作らなければいけないという問題だけではなく、摺電装置だって必要だし、真横にして撃つ事もあるから強度計算も必要で試験も当然必要だった。ある意味、余裕のある国と余裕のない国の差だとも言えなくはない。


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