M3中戦車"リー"

全長:        ?.??m
車体長:       5.54m
全幅:        2.72m
全高:        3.12m
重量:         27.9t
装甲:   12.7〜50.8mm
乗員数:        6名
武装:38口径75mm砲×1
    54口径37mm砲×1
    7.62mm機関銃×4
動力:???
走行性能:最大速度:39km/h
       航続距離:???km
総生産台数:7259両

(武装データは後期型のものです)
 第2次世界大戦前のアメリカは不況の影響もあって、軍備がさほど充実していなかった。1939年7月の時点で陸軍兵力は約17万名で、ドイツに蹴散らされる事となったポーランドよりもずっと戦力は下だった。戦車生産数も、年間何百両といったレベルで工業力が極端に低かった日本よりも生産数は低かった(日本はこの時点では日中戦争をしていたためだけど)。この1939年に制式採用された中戦車にM2中戦車”マチルダ”というのがあった(イギリス軍のマチルダ歩兵戦車とは全く別の車両)。37mm砲搭載の平凡な戦車だったけども、同年にドイツ軍のポーランド侵攻によって中戦車としての価値が極端に下がったのと、軽戦車にも同じ大砲を積んでいたので中戦車としてはより強力な大砲を積む必要に迫られた。75mm砲搭載を条件としたけども、旋回砲塔に大きい大砲を積む実績がまだなく、また強度計算をおこなう時間もなかったので、M2中戦車の車体右の機関銃の所に75mm砲を搭載した。また、撤去された機関銃を惜しんだのかは知らないけども、37mm砲搭載砲塔の上に機関銃用の銃塔を設けたため、全長のわりに全高が高くなるという異様な格好になってしまった。まさに多砲塔戦車とも言える。
 さて、完成したこの戦車はM3中戦車として採用。名称は”リー”と命名された。リーとは南北戦争で、南軍の指揮官だったリー将軍からとっている。ただ、この戦車を最初に実戦投入したのはイギリス軍だった。当時のイギリス軍は1940年にドイツ軍に敗北しダンケルグから兵員は撤退できたけども、装備はおきざりだった。極端な兵器不足に陥っていたイギリス軍はアメリカ軍のこのM3リーに目をつけた。ただ、発注にあたっては、37mm砲砲塔の上にある銃塔はムダと考えたのか、そこは取り払われた。イギリス軍では「グランド」と命名された。グラントとはアメリカ南北戦争で北軍で活躍した将軍の名前で、アメリカの「リー」に対抗した名前というべきか、それともイギリス人らしいユーモアのある命名だったのだろうか?さて、攻撃力のある戦車が少なかったイギリス軍にとっては、まさに貴重な戦力で、枢軸軍に初めて攻撃を加えた実績があるのは1942年5月の北アフリカでイギリスの第32戦車旅団がガザラ戦線で使用している。対決していたイタリア第21軍団の将兵はヘンな戦車に困惑したのではないかと思える。
 また、M3リー中戦車はソビエト軍にも供与されていた。そのため、東部戦線でもドイツ軍相手に姿をあらわした。ただ、ソビエト製戦車に比べると攻撃力・防御力共に劣っていたため、あまり華々しい戦果もなく、ソビエト軍の戦車生産が順調になってくるとサッサと第一線装備から外された。とはいえ、戦車生産力が順調ではなかった時期の穴埋めとして活躍している。
 なお、供与された数はイギリスに2653両でソビエトに1386両となっている。
 ただ、肝心の自国アメリカ軍では戦闘には殆ど使用されなかった。アメリカ陸軍が本格介入した北アフリカ戦線で第一機甲師団が配備していて、ドイツ軍と戦火を交えた記録はあるものの、それ以降にアメリカ軍がM3リー中戦車を使った記録はない。理由としては当時既にM4シャーマン中戦車が大量に完成していたからだった。そのため生産されアメリカ軍に配備されたM3リー中戦車は後方部隊用か訓練部隊用だった。
 「穴埋め」として活躍した戦車ではあったが、所詮「穴埋め戦車」のそれ以上でも、それ以下でもなかった戦車であった。


 M3リー中戦車は生産型にもよるけども、基本的には航空機用の星型エンジンを搭載している。航空機用エンジンは長さがさほど長くないので、全長を短くできるという利点がある。全長が短いという事は操縦性が良くなるという事だけども(キャタピラが長いと操縦性が悪くなる)、欠点も多かった。直径が1.3m前後あるので、高くなってしまう事。また、航空機用エンジンはいうまでもなくシャフトがエンジンのど真ん中にある。当時の戦車は前輪駆動が主流だったから、シャフトをエンジン(後方)から駆動輪(前方)にもってくる必要があったけども、右図のように(やはりヘタな絵ですが(^^;))砲塔のバスケット戦闘室がどうしても高くなってしまう。そのため余計に全高が高くなってしまう欠点があった。
 武装は、当初は27.5口径75mm砲と50口径37mm砲だったけども、生産が進むにつれて、37.5口径75mm砲と53.5口径37mm砲と砲身を長くしてより強力な装備となった。特に75mm砲は攻撃力に限って言えばM4シャーマン中戦車と互角だった。ただ、アメリカは直接戦闘車輌(ようは自走砲みたいな支援車輌などを除く)に固定砲塔を嫌ったためかM3リー中戦車はアメリカ軍では戦場投入は殆どされなかった。


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