M48自走ミサイル車両"チャパラル"

全長:        5.89m
車体長:       5.89m
全幅:        2.69m
全高:        2.89m
重量:         13.1t
装甲:       ???mm
乗員数:        5名
武装:MIM-72チャパラル
     地対空ミサイル×4
動力:6気筒 275馬力
    液冷ディーゼル
走行性能:最大速度:68km/h
       航続距離:???km
総生産台数:5520両
 アメリカという国は地対空兵器に関しては劣っている所がある。無論、弾道弾迎撃ミサイル「パトリオット」や歩兵用携帯対空ミサイル「スティンガー」などは第一級の性能を誇っている。ただ、機甲師団など航空攻撃を受けやすい部隊への地対空兵器の開発・配備はといえばあまり熱心とは言えなかった。言うまでもなくアメリカは制空権確保に絶対の自信があるからに他ならないが、全くないのではよろしくないので、一応の開発はなされている。ただ、お世辞にも一級品とはいえない。このM48チャパラルもその中の1つである。
 1958年9月24日。台湾海峡にある金門島、馬祖島をめぐる問題で中国軍と台湾軍で戦闘が起こった。特に大規模だったのが空中戦で、中国軍はMig-15、Mig-17といった当時東側の新鋭戦闘機を繰り出し、台湾軍もF-86Fセイバーを繰り出した。さしずめ、朝鮮戦争の再来ともいえ、米ソ代理戦争の一面もあった。朝鮮戦争の時代と決定的にちがっていたのは台湾軍の戦闘機には開発されたばかりのGAR-8AAM(空対空ミサイル)「Sidewinder」が搭載されていた。結果は台湾軍の圧勝で台湾側の発表では損害なしで中国軍機29機を撃墜したとの事だった。たしかに航空機用機関銃の有効射程は400mぐらい、Mig-15やMig-17は23mm機関砲や37mm機関砲を搭載していたので、もうちょっとは射程が長かったと思われるけども、それでもせいぜい800m程度だろう。サイドワインダーの方は7kmの最大射程があったのだからこの時点で圧倒的だった。しかも機関銃の場合はとにかく、相手の後方に食らいついて弾道点に照準を向けて発射する必要があり、名人芸が必要だったものの、AAMの場合は、ロックオンすればそれでよかった。あとは熱探知式のサイドワインダーが勝手に飛んでいってくれる。サイドワインダーは直径が5インチ(127mm)なので真後ろから飛んでこられたら狙われた側からは絶対に見えないから回避もできない(発射炎があればわかるけども、推進剤は何秒かしか燃焼しないから、そのあとは慣性で飛ぶ)。この圧勝でアメリカはミサイル万能論を説くのだが、その詳細は関係ないので言わないが、とにかく、GAR-8サイドワインダーの威力のほどはよくわかった。
 このミサイルを基地防衛用にと空対空から地対空に転用したいというのはごく自然の成り行きだった。アメリカ陸軍はフォード社に対してこの製作を依頼する。時に1965年初めだった。いくら既製品を改造するとはいえ、開発はスピーディーに行なわれた。同年夏には試作品が完成したほどだった。いろいろと思考錯誤の繰り返しを行なって、翌1966年4月にはMIM-72"Chaparral"として制式採用された。これは基地防空用などの固定式だったけども、これを移動式にしたいというのは当然の成り行きだった。当時汎用性のあったM548キャタピラ式貨物輸送車に手を加えてMIM-72搭載用とした。荷台は全くの新規だけども、外見上ではM548カーゴキャリアとそう変わらない。このタイプはM730と呼ばれ、さっそくMIM-72チャパラルを搭載した。これらをひっくるめてM48チャパラルと呼ばれるようになった。
 このM48チャパラルは有効射程が6000mで有効射高が3000m。射程に対して射高が低い理由は上で書いたように小型ミサイルは何秒(6〜7秒)ぶんしかロケットモーター(燃料)がないので、あとは慣性で飛ぶからというのが理由。あと、初期型は排気炎の高温部しか狙えないという欠点があった。そのため、通りすぎた敵機でないと撃てない欠点もあった。理由は、初期のシーカー(熱源探知部)は探知温度を低くすると、太陽に向かって飛んでいってしまったり、太陽で熱せられた岩に向かっていたりしたからで、実際こういう事はあった。ただ、言うまでもなく改良は施されて、MIM-72C型からシーカー部の大改良が施されて真正面からでも撃てるようになった。ようは機体の摩擦熱に向かって飛べるようになったからで、これは摩擦熱は太陽などの炎の熱とは波長が異なるからこれを利用したものだった。MIM-72Fになると射程の延長がなされている。
 M48チャパラルは1969年からアメリカ陸軍に納入されたものの、実戦で使用されたかどうかは不明。第二次大戦以降は制空権が取れなかった戦いをしていないアメリカではたしかに使い道はないのだろう。ただ備えは必要だから、今でも配備はされている。ただお世辞にも高性能とはいえないこのM48チャパラルを見ると、アメリカ空軍の力の凄さを思い浮かべてしまうのは私だけだろうか?
 総生産台数は5520両で、殆どはアメリカ軍で使用された。少数(197両)は輸出用にまわされたものの、その殆どはイスラエルに輸出されている。


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