M60戦車

全長:        9.54m
車体長:       6.95m
全幅:        3.77m
全高:        2.89m
重量:         41.9t
装甲:   35.6〜254mm
乗員数:        4名
武装:51口径105mm砲×1
    (63発搭載)
    12.7mm機関銃×2
動力:コンチネンタル
    AVDS-1790空冷V12
    750馬力ディーゼル
走行性能:最大速度:48km/h
       航続距離:500km
総生産台数:20000両以上
 1950年に朝鮮戦争が始まって、M26パーシングは共産軍のT-34/85を圧倒した。驚愕したソビエト側は負けじとT-54/55を作り上げた。100mm砲搭載で重厚な装甲。見てわかるように避弾径始のよさ。せっかくのM26パーシングの発展型(M46)のさらに発展型であるM48パットン戦車も色あせて見えた。
 後にM60と名づけられる戦車の開発は1956年に始まった。試作車両の完成が1958年と、戦争している訳でもないのにやたらと速かった。言うまでもなく、T-54/55戦車に脅威を感じていたからに他ならない。搭載する大砲は100mm砲の上をいく105mm砲で後述するけども、イギリス製の大砲だった貫通力は1000mで300mmの装甲を撃ち抜けた。この数値は2000m以上でもT-54/55戦車を撃ちぬける勘定になる。装甲も厚い部分で5.6インチ(142mm)と2000mの距離で撃ち合うにはT-54/55戦車には十分対抗できた。ただ、試作車両が素早くできた理由は、全くの新規車両ではなく、M48パットン戦車を基本ベースにしているためで、とにかく急いでいたのだった。ともあれ、1962年にはM60の改良型M60A1が量産状態に入ったものの、もはやその時はソビエト側も115mm砲搭載のT-62戦車を就役させており、単純に考えた場合、T-62の方が威力は上だった。そのためか1965年には152mmガンランチャー装備のM60A2に発展する。この152mmガンランチャーは砲身が短いけども、ミサイルと大砲の両方を撃てた。対戦車用ではミサイルで榴弾は大砲という事なのだろう。ただし、その発想は悪くはないと思うのだが、ミサイル(シレーラミサイル)が性能が悪く故障が続発した。また、整備性もあまりよくなく、配備部隊からは不評だった。そのため526両と少ない生産数に終わり、今現在、配備はなされていない。
 1970年になって、時期主力戦車構想MBT70が完全な失敗に終わったため、慌てたアメリカ陸軍は既存のM60A1の改修を行った。この型はM60A3とは呼ばれず、M60A1RISE(ライズ)と呼ばれた。RISEとは「実用性向上、装備近代化」の略称だそうで、英語ではどう書くか知らないんです(涙)。さらに、どんな改修を行ったかもしらないんです(涙)。ともあれ、つなぎとしては役立った。
 実際の問題として、M60A1が敵戦車T-62戦車に対抗できるかは未知数だった。しかし、その対決は実際に行われた。場所は中東。1973年の第4次中東戦争である。イスラエル側はM60A1を主力戦車とし、シリア軍はT-62戦車を先頭にT-55戦車も繰り出しての大戦車戦を展開した。M60A1とT-62戦車の外形を比較した場合、高さはM60A1は銃塔を入れると3.2mにもなったのでT-62戦車に比べても1mも高かった。これは戦術面では大きなマイナス要因ではあったが、イスラエル軍はこれを最大に利用した。ゴラン高原は起伏が多い地形だった。全高が高いということは戦車砲に仰角・俯角がかけられるという利点がある。特に俯角はM60A1は-10°まで下げられたのに大してT-62戦車は車高が低い事もあり、-4°しか下げられなかった。そのため右図のような(まだできてないですが(;_;))戦闘をイスラエル軍はしかけて、シリア軍を多いに破った。何両かは捕獲されて、徹底的に調査が行われ、意外とT-62戦車は欠点が多いという事がわかり、M60もソビエト製戦車に対抗できる事がわかった。これはアメリカ陸軍も大いに喜んだことだろう。勝因としては、我彼の戦車兵の技量の差もさることながら、FCS(射撃統制装置)の性能の差が大きかったとも言えるだろう。
 ただ、ソビエト側もすでに125mm滑空砲搭載の戦車T-64戦車を就役させており、対抗上アメリカ側も防御力向上に努める必要があった。M60にはこれ以上の防御力向上は無理で、新型戦車の開発が中東戦争の1年前には始まっていた。M60も第三次中東戦争の勝利でしばらくはM60A1RISEのままだったけども、1978年にはM60A3に発展した。外見上の大きな違いは側面にスモークディスチャージャーがついたぐらいだけども、射撃精度の向上が図られて、走行中だろうが、夜間だろうが、すばらしい命中率を発揮できるようにエレクトロニクス部分が大幅に強化された。いうまでもないけども、大きな口径の大砲を積んでも、命中させられないと何の意味がないのである。
 1980年にはM1エイブラムズが就役。しかしながら、一気に更新されたわけでもないので、M60A3やM60A1はそのままアメリカ陸軍に配備されつづけて、じわじわと更新の時期を待つ事になった。ただ、今でも配備されている部隊もある。
 1991年の湾岸戦争では海兵隊がM60A1を装備しイラク軍に戦いを挑んだ。T-55戦車やT-72戦車が相手だったけども、T-55戦車には圧勝は当然として、T-72戦車相手にも、善戦し、ほとんど一方的に敵戦車を撃破していった。M60A1も少なからず損害をこうむったものの、その損害理由の大半は地雷だった。ただし、欠点も露呈した。それは機動性で、M1A1エイブラムズは70km/hで走れたけどもM60A1の方は50km/hも出せないから、一緒に進撃ができなかった。これはやむをえないといえばそれまでではある。
 M60シリーズはアメリカ陸軍はもちろん、大々的に輸出もされていた。イスラエル・イラン・トルコ・韓国など実に25カ国以上にも及んだ。アメリカ陸軍では多くがM1エイブラムズに移行してしまったものの、他国ではいまだに現役なM60戦車も多い。そのためか、M60戦車用の改修キットも数おおいし、ジェネラル・ダイナミクス社ではM60戦車の車体にM1A1エイブラムズの砲塔を乗せた改修型も計画されている。世界的な軍縮で軍事予算が削られていくさなかで、この改修キットはM60を配備している国々には魅力のある買い物ではないかと思える。また、新しい戦車に更新を考えているトルコなどにも積極的に売り込みを図っているといわれている。
 どうやら、21世紀になっても、まだまだ現役でがんばっていくようではある。これを考えると、アメリカ製兵器も息の長いモデルが多いなぁと思ってくる。


 M60戦車のバリエーション

 M60:
 初期生産モデル。上で書いたように、M48の大砲を105mmにしたたけのようにも感じる。その理由なのか、この型は「スーパーパットン」と呼ばれていた(M48は「パットン」)。照準器はパノラマサイト式で、単眼式よりも相手までの距離が求めやすく(単眼式は相手戦車の寸法がわからないと距離がわかりにくい)その誤差も25m以内とかなり優秀なものだった。ただ、今のレーザー照準式に比べれば「骨董品」といわれてもしょうがないのであろうが、基本教育しか受けていない新兵でも比較的簡単に測距ができるものだったといわれる。暗視装置も赤外線投射装置を装備しており夜戦も可能になっていた。FCS(射撃統制装置)もこれまでの機械式計算機からM16型電子計算機を搭載するようになり、射撃精度も射撃速度も飛躍的に向上したという。しかし、それでも戦車長が目標を指示して計算機にデータ入力をして射撃するまでに最長で17秒かかったというから、今のレベルに比べれば相当遅かった。しかしこれは今の我々の考えであり、当時にしては相当に速く、また正確だった。このFCSはソビエトに相当勝っており、第4次中東戦争の勝利の主因はここにあったといえる。いかなる強力な砲弾も敵に当てないと意味がないからである。形は古めかしいが、内部は最新鋭だった。

 M60A1:
 砲塔の内部を広げるためと装甲を厚くするために、前後に砲塔を長くした型。どうにか、西側戦車らしくなった型だといえる(M48パットンはなんとなくT-55戦車に似てなくもない)。前後に広がったため、砲弾搭載数は63発とM60戦車に比べて5発増えている。装甲もM60では砲塔前が143mmで砲塔上が36mmだったのに対してM60A1では砲塔前が254mm、砲塔上でも57mmという重装甲だった。これなら、T-62戦車とも正面きって撃ち合えた。M60A1は上で述べたようにT-62戦車との撃ち合いで一方的に勝っているものの、この強装甲も勝利の一因とも言えるかもしれない。なお、この型以降のM60には正式な愛称(「パットン」など)は付けられなかった。

 M60A1RISE:

 MBT70計画が完全な失敗に終わったために、M60A1を改修した型。外見上にほとんど変更がないので、内部のFCSなどの改修を行ったと思われるが詳細は不明。なお、新規製作だけでなく、既存のM60A1もRISE化された。その数は5000両を超える。

 M60A2:
 M60A1の主砲の51口径105mm砲を152mmガンランチャーに変えた型。152mmガンランチャーは対戦車ではシレーラ対戦車ミサイルを発射でき、対人用には榴弾を発射できた。当時はミサイル万能時代とも言われその意味では時代を先取りしていたといえるが、今でも戦車搭載の対戦車用兵器は大砲であるように、ミサイルは欠点があった。当時のシレーラミサイルは故障が多く、整備も大変だった。また、決定的な弱点として、値段が高かった。105mm対戦車徹甲弾は1発30万円程度だけど、対戦車ミサイルは1発1000万円をゆうに超える。たしかに、撃破する戦車は1億円以上するので、当たれば採算?は取れるものの大量の配備ができなかったとも考えられる。各国では主力戦車にミサイルの装備はあまり評価しておらず、それは今でも同じ傾向だといえる。526両しか生産されず、今では配備されていない。外見上の変化は、ちょうど、砲塔がホッペを膨らませたような格好と短い砲身の大砲のため、識別は容易にできる。

 M60A3:
 M60A1RISEをさらに近代化させた型。仮想敵ソビエトはT-72戦車を量産しており、自国アメリカの新型戦車(後のM1エイブラムズ)も当分間に合いそうにないので、既存のM60A1RISEを改造して、T-72戦車クラスにまで戦闘力上げた。外見上の変更は主砲にサーマルジャケット(熱で主砲が膨張しないように付けた)の追加とスモークディスチャージャー(煙幕弾発射装置)が追加された程度だけど、中身は大幅に変えられた。まず、高性能なスタビライザーを装備したスタビライザーとは動揺安定器でようは走行中にもキチンと大砲を照準できるようにした装置で、これによって走行中射撃の命中精度は大幅に向上した。また、FCSもM16電子計算機からさらに新鋭のM21電子計算機に変えられた。これは、気温・気圧・風速・風向・砲身磨耗度・距離などで瞬時に計算を行って初弾命中率を飛躍的に高める事に成功した。その距離を求める装置もYAGレーザー距離計を装備し、これはFCSと連動していると考えられるが実際には不明。また、戦車用熱線映像サイトも追加されて、これで夜とか雨とかでも、敵の戦車を探索して射撃が可能になった。この点で、ソビエト軍のT-62戦車と大きく差をつけるようになり、T-72戦車とも互角以上に戦えるとされた。実際に中東での紛争ではT-72戦車に勝利をしている。戦車とは大砲の弾を当ててナンボだからであろう。

 スーパーM60:
 1981年にテレダインコンチネンタルモータース社が独自に開発したM60戦車の決定版。エンジンは1200馬力の強力タイプを搭載し、その余力をもって、装甲もサイドスカートをはじめ、いろいろな追加装甲を施した型。追加装甲は既存の車体・砲塔に被せる形のため、既存のM60戦車を改造できるし、M60戦車を配備している国もまだまだ多いので、魅力のある改造案ではないかと考えられる。採用された国などは不明。アメリカ軍でも州軍にM60戦車が配備されており、その強化計画にこのスーパーM60を母体として開発しているという話も聞くがどうなったのだろうか?。余談ながら、大砲は105mm砲のままになっている。

 M60-2000:
 「2000」と銘打っているものの、2000年に開発されたというわけではない。2000年代に向けたM60みたいな意味がある。これも上のスーパーM60と同じく既存のM60を改修するタイプだけども、決定的に違うのは、砲塔をM1A1エイブラムズと同じのを乗せるというもので、エンジンも1200馬力にパワーアップさせている。この案はM1エイブラムズを作っている、ジェネラル・ダイナミクス社の案でM60を装備する各国に売り込みを図っているらしい。重量は50t近くにもなるものの、1200馬力のエンジンで軽快に機動できるという。また、M1A1エイブラムズ自体、湾岸戦争で無敵の活躍をしたので、その能力は実証済み。FCSもM1A2のものを搭載するという。M1A1を買うよりも安くすむと言われているが、ここまでフルスクラッチしてしまうとあまり値段が大差ないように思える。ただ、乗員の練度を考えれば、全く新規の戦車よりも既存のままのほうがいいだろう。既存のは操縦手が乗る車体だけだけども、操縦手もそうとうの技量が必要で、戦車長になるには名操縦手になるべきだという人もいるので、その点では既存流用の利点ともいえる。ただ、どの程度の国で採用されるかは未知数である。

 そのほか、他国(特にイスラエルでは原型をとどめないほど改修されている)でもいろいろ改修されたM60戦車もあるし、これを母体に工作車両も数種類つくられていますが、これについては別項ないし割愛させていただきます≦(_ _)≧


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