メルカバ
全長:        8.78m
車体長:       7.60m
全幅:        3.70m
全高:        2.76m
重量:         61t
装甲:       ???mm
乗員数:        4名
(別途 6名乗車可能)

(上記データはメルカバMk.3のものです)
武装:44口径
     120mm滑腔砲×1
     (50発搭載)
    12.7mm機関銃×1
     (搭載数不明)
    7.62mm機関銃×3
     (10000発搭載)
    60mm迫撃砲×1
     (30発搭載)
動力:GD社製
    AVDS1790-9AR
    1200馬力ディーゼル
    空冷12気筒V型
走行性能:最大速度:55km/h
航続距離:500km
総生産台数:1000両
(現在も生産中)
 第二次大戦時、特にドイツとソビエトの戦いは戦車の戦いだったと言っても過言ではない。両国とも戦車開発にしのぎを削り、あっちが優れた戦車を投入すればこっちもそれ以上のものを作ってそうなったらまた向こうも優れた作ってくるからまたこっちも・・・とタンクパワーバランスを少しでも自国に有利に働きかけようと戦車開発者は努力を惜しまなかった。戦車好きで、第二次大戦時のドイツないしソビエトのファンが圧倒的に多いのもごく自然だといえる。ただ、結果的には数に押し切られた。

 戦争が終わって、戦争体系も変わってしまった。冷戦の主役だったアメリカ・ソビエトの弾道核ミサイルの開発成功で、互いに戦争が起こせない状態となり戦争はアメリカないしソビエトの影響下にある他国との局地戦以外には不可能になった。大規模な軍事行動ができないとなると、特に大国の干渉があると戦いは正規軍同士ではなく、相手がゲリラになってくるから戦車の運用も限られてくる。ベトナム戦争でも戦車同士の戦いが起こったのは(公式には)1回のみだった。

 唯一の例外が中東での戦闘で、イスラエルとシリアとの戦いは大規模な戦車戦となった。アメリカはイスラエルを、ソビエトはシリアを全面的に支援し、米ソ大国のまさに代理戦争だったが、結果はイスラエル軍の圧倒的勝利だった。戦車の質の問題ではなく、乗員の技量の差が大きかったといえるが、大勝利したイスラエル側にも意外な問題が出てきた。当時のイスラエル戦車はM48戦車やM60戦車などの、アメリカ供与品を使っていたものの、これらの戦車はユーロ平原のソビエト軍と戦うために作られたもので、ゴラン高原の起伏の多い地形用に作られたわけでもなく、無論、砂漠戦用に作られたものでもなかった。イスラエルで使うには多少なりとも不便はあった。他にもM4シャーマン戦車改造型も戦場に投入していた。その理由は戦車の不足で、上で述べたようにアメリカから供給されていたものの、満足のいく数ではなかった。イスラエルが金持ちとはいえ予算には限界があり、必要数揃えるには中古の戦車しかなかった。主砲だけは新型に換えられたものの、車体はそのままで乗せられた戦車兵はさぞ不安だったろう。しかし損害以上の戦果は挙げている。こういったありさまなので、敵から捕獲したT-54/55戦車を105mm砲に換えて使ってもいた。こういろいろな戦車を戦場に投入していると部品供給もさぞ大変だろう。
 決定的な理由として、イスラエルに武器を輸出する国が限られてきた点にある。理由はアラブ諸国のいわゆる石油戦略で「イスラエルを味方にしたら石油を輸出してあげませんよ」というものでエネルギーを石油に頼っている諸国ではこれは無視はできない。つまり、いくら金を積んでも武器が手に入りにくくなった。材料(鉄など)は輸入ができたので(名目上だけでも民生用といえば通るから)もはや自国で作るしかなかった。

 メルカバの開発開始は1960年末だと言われている。1967年の第三次中東戦争でエジプト領シナイ半島を手に入れ大勝利を収めた頃で、いずれは自分よりも優れた戦車を投入して奪還しにくるだろうと考えていたのか知らないけども、イスラエル側もとにかく優秀な戦車を欲した。イスラエル側にはアラブ諸国を完全制圧する気はなく、その気があったとしてもその国力がなかった。だから機動力などは2の次でとにかく防御力の高い戦車を欲した。イスラエルは人口が少なく、とにかく兵士は貴重だった。イスラエル軍が目をつけたのはイギリスのチーフテン戦車だった120mm砲搭載で、この大砲は当時の戦車だったら2000m以内で命中させた場合、確実に撃破できた。防御力も申し分なく、イギリス側に申し入れイギリス側も承諾した。しかし石油を武器にとったアラブ諸国との外交上の問題からこのチーフテン戦車の売却はイギリス側から一方的に破棄された。イスラエルは自国開発を始める理由の1つとなった。

 1973年、エジプト・シリア連合軍は領土奪還(シナイ半島とゴラン高原)を目的に、ちょうどイスラエルのヨム・キップル(贖罪の日)に襲いかかった。これは第四次中東戦争と呼ばれた。余談ながら、当時の各国発表はエジプト側もイスラエル側も「向こうから攻撃をしかけられた」と発表。しかし各国メディアは今まで先制攻撃ばかりしていたイスラエル側の主張を全く信じなかった。狼少年の典型的例といえる。以上余談。さて、この戦いではイスラエル軍の健闘で、アラブ軍の損害が大きかったものの、ガザ地区を除くシナイ半島をエジプトに奪還された。「戦闘に負けても戦争に勝つ」とエジプト側の戦略はある程度の成功を収めた。このような状況で1974年にメルカバの試作車が完成し1977年に発表された。時期が時期だけに「第四次中東戦争での苦戦から生まれた戦車」といわれていたが、実際にはそれは正しくない。正しくないが、この苦戦から開発が加速されたと言いきれないこともない。ただ、発表されたメルカバは各国の戦車研究者の注目を浴びた。大きな車体に小さな砲塔。フロントエンジンの搭載と各国戦車とはかなり趣を異にしていた。現代戦車戦を豊富に経験しているイスラエルならではという意見が大半だけども、これを真似しているような戦車は他国にはない。ある意味イスラエルという特殊な環境だからこういう戦車が生まれたと解するべきだろうか?
 1982年のレバノン侵攻が初陣で1983年12月にはその戦訓からかMk.2に発展した。さらに1989年には主砲を105mmライフル砲から120mm滑腔砲に換えたMk.3へと発展した。これらの詳細な点は後述するとして、メルカバ各型合計で1000両以上が生産されたとされ今でも生産は継続されている。イスラエルとしては輸出も期待してはいるが今のところ客先は現れていない。


 メルカバの特徴として外見上から見てわかるほど、車体がデカい。また砲塔が小さい。その理由として砲塔は車体の何倍も砲弾が食らいやすいから砲塔を小さくしたというのが定説となっている。ただ、全高は他国の戦車とさほど変わりはないのであまり意味がないようにも思えなくはないのだが、車体を大きくしたのには理由がある。砲塔に砲弾が食らいやすいと書いたけども、メルカバは砲塔には砲弾を置くように設計されていない。すべて車体に置くようにしている。また、砂漠での補給の戦闘を考慮してたくさんの物資(砲弾や食料や水など)を積めこめるように戦闘室を広くとっている。そのために車体が大きくなったと解するべきだろう。戦闘室はけっこう広く、このスペースに兵員6名を載せる事ができる。まさに兵員輸送車なみの活躍もできる。と出現当時は製作者側も主張していた。ただ、実際の運用でこうなされているかは不明。演習ではこういう使い方がなされているが、現実問題として、戦車に兵員を載せても意味がないようにも思える。実際の所は物資積載用、または撃破された戦車乗員を乗せる目的なのだろう。その意味では非常に大きい意義がある。他の車体の特徴としてはエンジンが前にあるという事で、これは車体前部に砲弾が命中してもエンジンで砲弾をとめて、当然エンジンがやられたら行動不能にになるけど戦車兵は無事だという論法となっている。たしかにイスラエル戦車兵は行動不能になっても、可能な限り踏みとどまって、ないし砲弾がなくなるまで動けなくなった戦車で戦闘行動を行う勇敢さで知られる。ただし、徹甲弾が車体装甲板を貫通した場合、エンジンルームで砲弾が止まるかは疑問。やわらかい鋳造のエンジンが鋼鉄の砲弾を防げるとは思えない。ただ、HEAT弾避けとしては絶大な効果があるだろうし、「俺の前にはエンジンがある。必ず防げるんだ!」という乗員の安心感は計り知れないものがあるだろう。
 武装は当初は105mmライフル砲を装備していた。出現当初はこれでもよかったしレバノンでの戦闘でシリア軍のT-72戦車をM60戦車の105mm砲で撃破した実績もあったから対アラブ軍での攻撃力は問題はなかった。ただ、世界のスタンダートが120mm滑腔砲クラスになると、メルカバもそれにすばやく対応して、1988年前後には120mm滑腔砲搭載のMk.3が開発され生産が開始した。ただ、一般に公開されたのは1989年だった。この時点で120mm滑腔砲を搭載した西側諸国の戦車といえばレオパルド2とM1A1エイブラムズぐらいでその点での対応は非常に早かったといえるだろう。ある意味、アラブ軍への恐怖心がそうさせたとも言える。そのほかの武装として7.62mm機関銃が3丁搭載されている。1丁は同軸機銃で、あとの2丁は砲塔上にある。1丁は戦車長用でもう1丁は装填手用となっている。普通の戦車は戦車長用しかないけども、イスラエル軍ではその戦訓から火力強化のために装填手用にも搭載されている。早い話が市街地戦では大砲よりも機関銃を使う事が多いからだろう。機関銃といえば、標準装備ではないが主砲上に12.7mm機関銃を追加しているメルカバもある。これは演習時に、高価な大砲の弾(訓練弾でも20万円以上はする)の代わりに12.7mm曳光機関銃弾を発射するためのもので、これなら1発100円前後だから相当な経費節減になる。イスラエルでは女性でもお構いなしに徴兵しているぐらいだから経費は少しでも安く押さえないといけないという台所事情もある。ただし、訓練用だけではなく、実戦に投入してみると意外と使い勝手がいい事がわかった。市街地だと大砲よりも機関銃のほうが制圧能力が高いこともあるが、まさにタナボタと言えよう。その他の武装として60mm迫撃砲がある。これは歩兵を追っ払うためにあるのだけども、普通は煙幕発射装置のところにつけるが、メルカバは独立して対人専用の迫撃砲を追加している。これも実戦の戦訓だろう。

 メルカバは重いワリにエンジンパワーが非力。初期のメルカバはM60戦車と同じエンジンとトランスミッションをつけていたからで開発時間削減の意味もあったろうけど、モータニゼーションの進んだ信頼性の足るアメリカ製だからとも言えなくはない。しかしM60戦車より重いメルカバに同じエンジンだから機動性は劣悪だった。上でも書いたようにイスラエル軍が要求するものはとにかく防御力なのでそれでも良かったのか?「戦場でちょこまか走ってなんになるか。砲弾に中(あた)る時は中るんだ。中ったときの事を考えれなきゃいかん!」という論法なのだろうか?。さすがに新型のMk.3では1200馬力まで上げられたものの、それでも最高速度は55km/hで各国の主力戦車よりは遅い。
 メルカバには一説には140mm砲の搭載を計画中と言われている。もしそうなったらメルカバの重量は70tを超えるのではなかろうか?ちなみに、今までの戦車重量の世界記録は量産された戦車に限っていえば、ドイツのティーガー2重戦車の68tだけども(試作品のも含めればマウス超重戦車の188t)、これを超える日も遠くないのだろうか?



  メルカバのバリエーション

 メルカバMk.1:
 初期生産型。詳しくは上記参照の事。初期型ではエンジンとトランスミッションがM60戦車とほぼ同一だった。ある意味整備面では新たに教育する手間がなくなるのでそれで良かったのだろうか?。上で述べたようにエンジンが前にある。整備用に開口ハッチは絶対に必要だけども、当然ながら開口ハッチが車体前にちゃんとある。一番砲弾を食らいやすい場所にこういう開口部を設けるのは普通は嫌う。理由は言わずと知れたことだけども、ちゃんと防御がなされているのか、これが改められた形跡はない。あと、十分な防御が必要なのでこの開口ハッチは相当な厚みで出来ていると考えられ、当然ながら重量も相当なものになるだろう。ある意味整備員泣かせな存在なような気がしなくもない。
 車体が大きいため大砲の砲弾も結構たくさん積めこめる。数にして62発で、戦闘室後方のスペースに搭載されている。上で述べたように戦闘室後方に兵員6名を乗せられるスペースがあるので、ここにさらに積めこむことが理屈の上ではできる。被弾を考えた場合に実際に積めこむかは疑問だが(脱出の際に弾薬が邪魔で脱出不可能になる可能性がある)戦闘になったらそこからまず弾薬を消費してしまってるのだろうか?。一説には85発まで搭載できるとされている。
 1978年頃から生産が開始され、下記のMk.2が登場する1983年あたりまで生産が行われた。生産数は不明。

 メルカバMk.2:
 1982年のレバノン紛争で実戦を経験したメルカバMk.1だったけども、それを改良したのがMk.2だった。目に見える改良点としては追加装甲を張り巡らせている。一般に知られる爆発反応装甲ではなく、複合装甲を追加したと考えられている。鋲が砲塔に見えるのが特徴で外見上での識別点でもある。また、砲塔後ろに鎖をたらしているけども、これはHEAT弾対策で致命的となる砲塔と車体の間にHEAT弾が入り込んできたときに、この鎖と衝突して爆発させるための物。HEAT弾はその特性上、装甲板にへばりついて爆発しないと効果がないのでその存在意義はある。無論徹甲弾には通用しない。
 武装は主砲は105mmライフル砲のままだが、近接する敵歩兵用に60mm迫撃砲が追加された。
 見えない部分の改良としてはレーザー照準器を新型に換えている。またトランスミッションが新型となっている。ギア比がよくなったのか燃費が向上して航続距離が伸びたという。
 1983年から生産が開始され次もMk.3が本生産に入る1989年まで生産された。生産数は不明。

 メルカバMk.3:
 最大の特徴は大砲を120mm滑腔砲に換えた点にある。ただ、この120mm滑腔砲はドイツのラインメタル社製ではなく、イスラエルで独自に開発されている。ラインメタル社製の120mm滑腔砲を参考輸入して研究した成果とも思えるが、独力で開発したイスラエルの工業力はさすがといった所だろう。薬室はラインメタル社製の全く同一で、当然ながら、M1A2エイブラムズや、90式戦車と同じ砲弾が使える。日本から弾薬輸入をするのはまず考えられないが、アメリカはイスラエルの最大支援国だから、危急の際には弾薬を輸入して即使えるという点では大きなメリットだろう。
 ただ、105mm砲も120mm砲も外見上ではあまりかわらなく、Mk.2と比較して、ハナっから複合装甲を取り入れているので砲塔の鋲が見られない。素人目にはMk.1型と見間違えるかもしれない。砲塔や車体にさらに追加装甲が可能で、そこには爆発反応装甲がつけられると考えられる。実際のところ、付けているシーンは写真などでは確認できない。戦車戦になったらつけられるのだろうか?
 また、105mm砲から120mm砲にボアアップしたので砲弾搭載数が62発から50発に減った。
 FCSも当時の最新鋭の設備が搭載された。特にレーザーレンジファインダーや計算コンピューターが新鋭のものが使われて、行進間射撃(動きながら撃つ事)でも精度はいいと言われている。レーザー検知機も装備されていて、敵のレーザー距離計などがこちらに向けられると警報がなる仕組みになっている。これだけならどの戦車にも装備されているけど、イスラエルの凝った仕組みといえば、このレーザーの照射された方向を自動的に検知して発煙弾をその方向に向けて自動発射できる装置があるという事で無駄なく発煙できる仕組みとして評価はできるだろう。ただ、複数方向から照射された時が困るのではないかと思えなくはないが、それはそれでいろいろと考えられているのだろう。

 メルカバMk.4:
 現在開発中とされる。この噂が流れた際にイスラエルで140mm滑腔砲の開発が行われているという情報が流れたのでこれを搭載する戦車だろうと言われている。ただ、あくまで憶測の域を出ず、本当に開発中なのかは不明。ただ、ゆとりのない砲塔で140mm砲はきつかろうと素人目でみても思えるのだがどうだろうか?


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