Strv103(Sタンク)
全長:        8.99m
車体長:       7.04m
全幅:        3.63m
全高:        2.10m
重量:        39.7t
装甲:       ???mm
乗員数:        3名

(上記データはStrv103Bのものです)
武装:62口径105mm砲×1
     (50発搭載)
    7.62mm機関銃×3
     (2750発搭載)
動力:490馬力ディーゼル
    240馬力ガスタービン
走行性能:最大速度:50km/h
航続距離:390km
総生産台数:???両
 「戦車」という言葉から、皆さんはどういうイメージを思い浮かべるだろうか?。”でっかい鉄の塊”とか”道なき荒地でも大きな車体をものともせずに進む”とか”戦場での王様兵器”みたいな感じを思い浮かべると思う。また”砲塔がグルグル回って全周囲に撃てる”というイメージもあるだろう。実際にそうである。ただ、例外というのはどんなのにもあるように、この戦車にも砲塔がグルグル回らない戦車もある。次のSタンクが数少ない例外だった。
 スウェーデンという国は、オーストリア、スイスと共に中立を堅持している国として知られる。関係ないが、昔のスウェーデンは結構交戦な好きな国で中世の頃はいわゆるドイツの30年戦争の立役者としても知られていた。日本の15年戦争(満州事変から太平洋戦争終戦まで)は間に休戦が入っているので厳密には15年ずっと戦ったいたわけではないが(もしずっと戦っていたら日本はもっと早い段階で経済破綻してただろうけど)ドイツの30年戦争は文字通り30年戦いつづけた。ある意味、スウェーデンはこの戦いから「戦争は無益」というのを知ったのだろうか?

 さて、スウェーデンは上でも書いたように中立を守っているが、無論口だけで中立は守れない。たとえばルクセンブルグは第一次、第二次大戦ともに中立を宣言したにもかかわらずドイツに占領された。中立を守るにはそれ相応の軍事力が必要だった。スウェーデンはその点は理解してるし、国内に有力な兵器メーカーを揃えていた。一番知られているのは対空機関砲のメーカーのボフォース社だろう。Sタンクはこのボフォース社が主力となって開発された。

 1960年年代末にSタンクが実戦配備されて公表されると世界中の注目を浴びた。一番注目されたのはそのシルエットで、砲塔がなかったという点にある。砲塔がない戦車といえば、ドイツの突撃砲や駆逐戦車が思い浮かべるが、これらは厳密には戦車ではない。突撃砲は砲兵(野砲兵)が、駆逐戦車は戦車猟兵(対戦車砲兵)が乗っていたから機甲課の兵種ではない。戦車不足で戦車の代用とされたにすぎない。ただSタンクのさらに特殊な点といえば砲塔が車体に完全固定されている点にある。ドイツの突撃砲や駆逐戦車は仰角・俯角・左右ともに少し曲げる事ができるけどもSタンクはそれができない。このような戦車は後にも先にもないから、戦車研究者の注目を浴びて当然だろう。砲塔が完全固定されているせいもあって、専門の砲手がいない。では誰が大砲を撃つのか?。正解は操縦手。Sタンクは車体の旋回で左右の照準を行う。上下の照準は車体自体が上下できるようになっている。仰角は12°、俯角は10°までできる。仰角が少ないように思えるが戦車砲だという事をかんがえればそれで十分なのだろう。完全固定する利点といえば、強度的な問題を解決できる点と(横に撃たないのでその分の強度計算がいらない)自動装填装置の導入が簡単だという点にある。この当時の戦車用自動装填装置は西側諸国としては初めてで、ソビエトのT-64戦車の例があったものの、T-64戦車の自動装填装置は砲弾と火薬が別装填で、しかも乗員の腕を誤って装填しようとしたり、砲弾を逆に装填したりと信頼性は低かった。Sタンクの自動装填装置は大砲が固定しているので、わりと簡単な構造でできあがっている。弾は5発入りカートリッジが10個搭載可能で、逐次装填しては次々とカートリッジを交換していくもので、毎分15発が発射可能とされる。4秒に1発は撃てる計算でこの発射速度は十分速い。弾を撃ち尽くしたら車体後方の弾薬用ハッチを開けて砲弾入りカートリッジを装填すればいい。所要時間は10分とかなりすばやくできる。特に注目なのは日本の90式戦車と違って、車体上に人間が乗らなくて装填できるので、戦闘行動中でも再装填が安全にできる利点がある。なお、この105mm砲は他国のとちがい62口径という砲身の長い105mm砲を採用していた。そのため出現当時は西側戦車の中では攻撃力に限って言えば最強で、スウェーデンの仮想敵の当時のソビエト製戦車は2000m以内なら一撃で撃破可能とされていた。

↑最高仰角のSタンク。見て分かるように砲身は完全固定。
仰俯角調整はともかく、左右調整は難しかったのではないか?
 他の武装としては車体上に7.62mm機関銃が1丁と同軸機銃として同じ7.62mm機関銃が2丁ついている。砲身が固定されているのだから、同軸機銃がどこまでつかえるのかは疑問が残る。
 車体的特徴としては上で述べたように砲塔がない。砲身が完全固定が最大の特徴だけども、その車体も極端に傾斜角が与えられていて、被弾しても上なり下なりにそらすように工夫がなされている。また、転輪がかなり大きめなのが4つついている。油圧で車体を上下させる必要があるからここまで大きくなったのだろうか?。Sタンク自体はさほど小さい戦車ではないけどこの大きい転輪のせいで、写真に映ったSタンクはかなりコンパクトに見える。あとの外見上特徴としては、ドーザーが全車に標準搭載されているという事で、普通の戦車は「装着は可能だがいつもはドーザーは付けていない」のだが、Sタンクは全車が付けている。無論戦闘するから取り外すという事はしない。すぐさま陣地構築が可能となっている。

 内部を見ると、ここでも防御の重視が見受けられる。普通の戦車は前から”操縦室−戦闘室−エンジンルーム”だけども、Sタンクは”エンジンルーム−操縦室−戦闘室”とエンジンを犠牲にしてでも乗員を守る姿勢が見うけられる。現実問題として鋳造のエンジンがどこまで徹甲弾を防げるのかは疑問だが、乗員の安心感は計り知れないものがあるだろう。変わっているのはこのエンジンだけども普通の戦車は1つだけどSタンクは2つ付いている。1つがディーゼルエンジンでもう1つがガスタービンエンジンを搭載している。ディーゼルエンジンは490馬力でこれが普通に戦車を動かすときに用いる動力で、もう1つガスタービンエンジンは230馬力でこれは緊急発進時に用いる。ガスタービンは常にタービンを回す必要があるから燃費が悪い。しかし常にタービンが回っているので加速はいい。だから緊急時にしか使わないという理屈ではあるが、パワーの弱いエンジン2つを併用するのは無駄な気がしなくもない。実際に無駄なのだろう。ちなみに、2つのエンジンは並列に配置されていて、戦車長の前にディーゼルエンジンが、操縦手の前にガスタービンエンジンが配置されている。ガスタービンエンジンはやかましいので操縦手は大変だろう。
 兵員は自動装填装置搭載で3名になっている。通常の自動装填装置搭載戦車では、戦車長・砲手・操縦手の3名だが、Sタンクは変わっている。戦車長はいいとして、砲手兼操縦手と無線手兼後方操縦手という変則的な3名配置となっている。上で述べたように車体を動かして大砲を照準するから砲手と操縦手がいっしょな人間なのはしかたがないだろう。無線手兼後方操縦手は、実際の仕事は無線の操作だけども、エレクトロニクスの発達している現在では無線操作は簡単になった。無線手というのは実用的ではない。実際には射撃した後に素早く退却するときの操縦手というのが正解。また、自動装填装置が壊れた際に装填手にもなる。実際のところはヒマな配置な気もする。ちなみに操縦装置は操縦手は無論の事、上記のように無線手にもあるし戦車長用にもある。つまり乗員3名はいずれも操縦が可能になっている。

 このようにSタンクは完全に防御向きの戦車である。まぁ、攻め込む必要もないし輸出もしないからこれでも良かったんだろう。ただ、防御といっても敵の戦車を国境外に押し出す必要があるから実際には不便きわまりない戦車なような気もする。たとえば進撃中に不意に側面に戦車が出てきた時など困るだろう。スウェーデン陸軍もそこは認めたのだろうか、次の主力戦車には手堅くドイツのレオパルド2を採用した。また完全固定砲塔の考えはやはり無理があったのか専守防衛を是とする国々でもこの手の戦車の開発はなされていない。一種のアダ花戦車だったともいえようが、違った意味で戦車史に名を残す戦車となるだろう。

「数ある戦車の中で唯一、1人で戦闘が可能だったワンマン戦車」

そういう評価が後々になされていくのだろうか?


  Sタンクのバリエーション

 Strv103A:
 初期生産型。「A」という呼称がつけられているが、後に「B」型が出現したので便宜上付けられたのだろう。1967年頃から生産が開始され1971年中頃までに約300両が生産された。初期型にはドーザープレートがなく、浮航用のフロート装着装置がなかった。

 Strv103B:
 Strv103Aにドーザープレートと浮航用のフロートを付けた型。ただし、A型にも同様の改修が行われているので外見上での区別は不可能。
 普通に「Sタンク」といえばこれを指す

 Strv103C:
 1983年末から改良が行われた型。外見上での特徴は照明弾発射器がつけられたのと、これが最大の変更点なのだがサイドスカートが付けられた事にある。このサイドスカートは燃料タンクをかねている。22リットル入りのを7つずつ装備している。当然HEAT弾対策であるが、燃料積めこんで危ないなぁと考えるかもしれないけども、ディーゼル燃料は発火しづらいという利点がある。ただHEAT弾のジェット噴流を食らったら発火しそうな気もするが、小分けしてあるので燃える量はたかが知れているし、第一出撃の際はここから燃料を使うのでさほど問題はない。内部的な変更としてはディーゼルエンジンがイギリス製からアメリカ製に代えられた。トランスミッションも新型となりFCS(射撃統制装置)も新型に変わった。

 なお、制式名はないけども、1990年代初頭から前面へのHEAT弾対策のために車体正面に金網みたいなものがつけられた。これがSタンク最後の改良となっている。


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