AMX-30


全長:        9.48m
車体長:       6.59m
全幅:        3.10m
全高:        2.29m
重量:         37t
装甲:       ???mm
(最大100mmという説がある)
乗員数:        4名

(上記データはAMX-30B2のものです)
武装:56口径105mm砲×1
     (47発搭載)
    20mm機関砲×1
     (480発搭載)
    7.62mm機関銃×1
     (2070発搭載)
動力:ルノーHS-110-2
    750馬力ディーゼル
    水冷12気筒H型
走行性能:最大速度:65km/h
総生産台数:約2300両
 フランスという国家は昔は陸軍大国と呼ばれていた。イギリスのユーロ大陸侵攻を撃退したことから発して、その陸軍大国という名前を決定付けたのはナポレオンの登場からだろう。イギリスを除く大半のユーロ大陸を制圧し、ヒトラーでさえできなかったロシアの首都「モスクワ」の陥落も成し遂げている。ナポレオン時代から半世紀してプロイセンとの戦いで首都陥落という屈辱を味わってからその肩書きに陰りが生じたともいえるが、なんの、別に国土すべてを制圧されたというわけでもなかったし、第一次大戦では首都陥落寸前まで危機が訪れたものの、イギリス軍の助力もあって撃退。新兵器の戦車でもイギリスに遅れを取ったものの、フランス軍だってルノーFT17という戦車を開発・投入した。この戦車は外見が古めかしいとかいう点を除けば今の戦車とレイアウトでは大差ない。陸軍大国フランスの意地でもあったろう。
 ただし、今の戦車マニアからはフランス戦車といえばあまり評価がなされていない。理由は簡単。評価しようがないからである。第二次大戦ではドイツとの戦闘でわずか1ヶ月でフランス全土が制圧され、国土の5分の2がビジー政権としてかろうじてフランスの体面を保ったものの、中身はドイツの傀儡政権で兵器開発など無論禁じられたのだから、新しい戦車など作られるはずもなかった。1943年に降伏したイタリアや終戦まで戦前開発の戦車の改良型で戦い抜いた日本とはまた違う評価の低さだと言える。
 戦後になって、ド・ゴール政権のフランスでの戦車は敵国ドイツのパンター戦車などを装備していた時期があったけども、やがてはアメリカの兵器体系となっていく。ただ、敵(ソビエト)の戦車は強くなる一方だから、いつまでもアメリカの戦車(M48戦車など)ではいけないし、だいいち自国開発兵器の装備というのフランスの意地もあったのだろう。さりとてインドシナ(ベトナム)で多大な出費を強いられていたフランスでの自国独力開発は無理があったのかは分からない。それを見透かしたのか、同様にアメリカ戦車を装備していた西ドイツから「共同開発」の打診が行われフランスはそれに乗った。共同開発すれば理屈の上では開発費は半分になるから、安上がりになるという利点がある。1957年には基本合意し共同開発が行われた。この話に後でイタリアが乗り3ヶ国共同開発という事になった。この共同開発は、たとえば砲塔が西ドイツで車体がフランスとかいう別個の開発ではなく、互いに試作車両を作らせて競わせるものだった。フランス側と西ドイツ側の試作車両は共に1960年には完成しテストが行われた。結果は西ドイツの試作車両が上だった。だったら西ドイツの戦車が制式化されたかといえばそうではなかった。フランス側は西ドイツの試作戦車には納得がいかない点があった。車体が大きく、これでは戦場に出た際に隠れにくく弾に当たりやすい。決定的な相違があったのが戦車砲でフランス側では熱エネルギー弾(HEAT弾)の使用を強く主張していたものの、西ドイツ側は運動エネルギー弾(徹甲弾)の使用にこだわった。フランス側の主張もわからなくはない。フランスは1950年代後期に誘導対戦車ミサイルを開発し配備していた。弾種はHEAT弾だけども、実験結果からもこの対戦車ミサイルの性能はすばらしく、これを戦車に搭載しようと考えたのは無理もないだろう。西ドイツ側で運動エネルギー弾にこだわった理由は、熱エネルギー弾は初速を遅くする必要があるし、命中精度にも影響する。だいいち運動エネルギー弾に対抗するには材質強化か装甲を厚くするしかない。材質強化はあまり意味はない。なぜなら同じ材質で砲弾を作れば済む問題だから。装甲強化だって限界はある。不可能ではないが、速度が極端に遅くなるしだいいち運用方法も限られてくるしそれ以前の問題として戦場まで運べない。正確な理由は不明だけどこんな所だろう。結論からいえば西ドイツ側の主張が正しかったといえる。
 さて、結局は共同開発は白紙になり、フランスはフランス側の試作した試作戦車がAMX-30として採用した。時に1963年7月だった。AMX-30のAMXとは国立イシ・レ・ムリノー兵器工廠の略。フランス語でどう書くのかは分からないです(;_;)。AMX-30は西ドイツのレオパルド(レオパルド1)とほぼ同時期な出現であったため、さほどは注目はされなかった。いや、比較対象として注目されたと言うべきか。実際の所は戦車大国ドイツのレオパルドが注目された感はある。AMX-30で注目されたといえば、レオパルド1と比較して車体が一回り小さく、車高も引くく押さえられている事にある。同じ攻撃力でコンパクトに収めたAMX-30は立派だという意見もあったろう。ただ、レオパルド1と同じ105mm砲を搭載していたけども、中身は全く違っていた。AMX-30の大砲はは上記で書いたようにHEAT弾しか使わない設計だった。通称G弾と呼ばれる大砲は、2重構造になっていて、外殻が回転し中の砲弾は回転しないようになっていた。回転しない理由はHEAT弾というのは、熱ジェットで装甲をピンポイントに溶かす構造なので、回転させると、熱放射面積が広がって装甲貫徹力が劣るために、回転させないようにとの措置だった。ただ、外殻はいうまでもなく爆発力がないからその分、本チャンの弾の攻撃力は劣る。HEAT弾は弾の直径の二乗に比例して貫通力が増すのでこれは致命的ともいえる。G弾の貫通力は360mmといわれたが、同じ105mm砲を搭載したアメリカM60戦車のHEAT弾の貫通力は450mmほどだからいかに劣っていたかがわかる。G弾は初速が1000m/sもあるためそれがジェット噴流の貫通力不足に拍車をかけたとも思える。不幸にも1970年代になってソビエトでT-72戦車が就役間近という情報もはいった。正面装甲が350mmとも言われており、G弾の不利は明らかだった。やがてG弾の使用は諦められ運動エネルギー弾のOFL-105弾が開発された。弾種的にはAPFSDS-Tといえる弾種で初速が1525m/sだった。
 なお、AMX-30の主砲にはエバキュレーターがない。大砲発射時の残存排煙は圧縮空気で排出されるようになっている。なぜ世界的に一般的なエバキュレーターを装備していないのかの理由は良く分からない。
 同軸機関銃には12.7mm機関銃が搭載されていた。また、砲塔上の機関銃は7.62mm機関銃がつけられている。この7.62mm機関銃はリモート操作が可能で、戦車長が砲塔内にいならがの射撃が可能になっている。普通は同軸には7.62mmクラスの機関銃で砲塔上の戦車長用機関銃が12.7mmクラスな戦車が多いけども、フランスは逆になっている。これも理由は良くわからないが、全周動かせる機関銃が重機関銃なら取りまわしが悪くてしょうがないだろうという理由なのかもしれない。ちなみに、改良型のAMX-30B2では同軸機銃が20mmに変更されている。攻撃ヘリ用と説明されているがFCSもないのに当てられるのかは疑問。ちなみに同軸といっても、大砲と同じ向きしか撃てないのではなく、独立して動かすこともできる。
 エンジンは720馬力のエンジンで馬力の面ではこの時期の戦車としては普通だったけども、他国のと違っているのは水平H型エンジンを搭載している点にある。他国のはV型か並列型だけども、水平H型エンジンの利点は高さを押さえられる点にある。AMX-30の全高がかなり押さえられたのはこのエンジンの功績ともいえる。車体の高さを決めるのは大抵はエンジンの高さなのでこの点では大きい利点だった。ただし、凝った作りのためか、AMX-30の海外輸出用では機械的信頼性が疑問視されてドイツ製のエンジンに変えられたりしている。
 1979年にはAMX-30の大改良がなされ1982年にAMX-30B2として制式化された(後述)。AMX-30は輸出も積極的に行われ、その先は主に産油国で、サウジアラビア・イラク・カタールなどでスペインではライセンス生産も行われた。総生産数も2300両ちょっととそれなりに生産がなされた。ルクレールが本生産に入る1993年まで生産は継続されている。
 これといって戦争を経験していないせいもあるし、これといった特徴がある戦車でもないから、AMX-30の評価はあまりなされていない。かといって最低な戦車とかいう評価も聞かない。平凡な戦車といえるが、やはり戦車史に名を残すには中途半端ではいけないという事だろうか?


  AMX-30のバリエーション

 AMX-30:
 初期生産型。詳しくは上を参照。ただ生産途中で同軸機関銃の12.7mm機関銃が20mm機関砲に変えられた。理由は上に書いてあるように攻撃ヘリ対策のためだといわれている。砲塔はフランス伝統の鋳造砲塔で作られている。余談ながら、昔からフランスは鋳造を得意としている。

 AMX-30B2:
 1970年代になって、他国でもいろいろと新型戦車が誕生したこともあり、フランスでもAMX-30の大幅改良を行った。それがAMX-30B2だった。1979年に開発開始。主だった改良はFCS(射撃統制装置)の改良にあったとされる。この際にレーザー測距器が追加された。このレーザー測距器はM550と呼ばれ、最大検知距離が10km、5km測定時の誤差が2mチョイだという。実際には3000m以上では撃たないだろうからほぼ確実に測定できる。あとは暗視装置の近代化もなされた。今までの暗視装置は赤外線掃射型のアクティブ型で、ようは敵が同じ装置をもっていた場合、こっちの位置がバレるという致命的な欠点を抱えていた。そのためにパッシブ型の暗視装置が採用された。パッシブ装置とはようは光増幅装置で俗に言う”スターライトスコープ”。これで夜戦能力は大幅に向上された。また、あまり論じられないが操縦方式がレバー式からステアリング式に変えられた。レバー式とは名前のように2つのレバーで操縦する方法で、引いた側にブレーキがかかるという仕組みで、左を少し引くと左キャラピラの回転が遅くなって左に曲がるというもの。当然ながらこの操縦方式では超信地旋回(左右のキャラピラを互いに違う方向に回転させて車体はそのままで旋回する事)ができなかった。ステアリング方式はいわゆる自動車のハンドルと同じ。操縦性は格段に良くなるし、超信地旋回もできるようになった

 AMX-30S:
 砂漠向け仕様。フランスは伝統的に中東諸国に積極的に兵器輸出をおこなっており、これもその一環と言える。エンジンが620馬力とパワーダウンされている。理由はわからないが、防塵フィルターをつけるから吸気がどうしても劣るからだろうか?。一部にはAMX-30B2と同じFCSが搭載されているものもあるが、基本的にはAMX-30の発展型といえる。


 あとは、AMX-30の車体を利用したバリエーションも多い。AMX-30の車体に連装30mm対空機関砲を搭載した対空戦車。同じ車体に155mm榴弾砲を搭載した155GCT。フランスと西ドイツ共同開発のローランド対空システムもフランス側ではAMX-30の車体に搭載されている(西ドイツではマルダー歩兵戦闘車の車体に搭載している)。ある意味、コンパクトにしているので(ようは余分にデカくないから)ここまでバリエーションを増やせたとも言える。


戻る