ルクレール

全長:        9.87m
車体長:       6.88m
全幅:        3.71m
全高:        2.53m
重量:        54.5t
装甲:         ???
乗員数:        3名
武装:52口径
      120mm滑腔砲×1
    (40発搭載)
     12.7mm機関銃×1
     7.62mm機関銃×1
動力:SAVMV8X-1500
    1500馬力ディーゼル
    水冷V型8気筒
走行性能:最大速度:71km/h
総生産台数:1038両(の予定)
 戦後からの戦車の発展は著しいものがある。外見はさほど変わってはいないが、装甲材質の強化や大砲の大型化、また砲弾の材質や形状など大きく変わっていった。決定的に変わったのは、コンピューター技術だった。今までの砲手の技量による射撃から弾道計算を行い瞬時に射撃角度などを求めることができるようになった。ただ、戦車砲も初速が速くなっていったせいもあって、1500mぐらいまでは落差が1m以下しかないから、そのまま狙えば問題なく当てられるようにはなっていた。ようは1500m以内ならば敵戦車の車体中央部を狙えばいい。敵戦車のどこかに当たる。ただ、照準点のままに当たるというのは戦車が水平状態で無風で大砲もあまり撃っていない(ようは砲身が使いこなされてない状態)ならの場合での話で、戦車に環境センサーや大砲の先っぽと基部にセンサーを設けて砲身膨張などの状態を的確に把握して、その情報を戦車のコンピューターに送りこんで素早く計算して射撃できるようにしていった。こう書けば聞こえはいいがようはコンピューターのできる事といったら弾道計算だけだった。それが素早く確実にできるようになっていっただけだった。パソコン情報誌「ログイン」の言葉を借りれば「戦う電卓」に過ぎなかった。
 1980年初めになって、フランス陸軍のAMX-30戦車の性能に不満がでてきたので、西ドイツ軍(当時)と共同で戦車開発を行う事にした。共同開発の利点は単純にいえば開発金額が半分になるという点にある。兵器開発は我々一般人が考える以上に金がかかる。戦車ともなれば10億円単位で金が飛ぶ。両国の思惑が一致した結果だったものの、1982年には決裂した。陸上兵器は特にこう言えるのだが、各国で「ここは重要」「ここはどうでもいい」という点が異なってくる。ようは国民性と地勢の状況下でそれが相当異なってくる。隣が敵だった西ドイツとそうではなかったフランスでは考えが違ってくるのは当然といえた。
 1982年以降になって、フランス軍は新しい戦車を開発しだした。共同開発が中止になったからといって「まぁAMX-30のままでいいや」なんて思うはずもないからで、AMX(イシ・レ・ムリノー工廠)で開発がなされた。1986年1月には試作車両が完成し公表された。この車体には「ルクレール」の名前がつけられていた。フランス陸軍では戦車1両1両に固有の名前をつける伝統があり、この試作車両もそれにのっとったものだったが、この名前が制式名となるとは名付け親もそうは思わなかったろう。ただ、生産型とは形状は全く異なっていた。ようは改造の余地がまだまだあったという事だが、「俺らもこんな立派な兵器を作っているんだぞ」というパフォーマンス的な意味合いの公表だったのかもしれない。
 さて、1990年になって、さらに改良されたものが、兵器展示会で公表された。この車体には「BAYARD」(ベイアード。フランス語読みではベイヤールらしい)という固有名が与えられた。ほぼ生産型と同じ形状をしていたものの、このベイアードという名前は普及する事はなかった。
 制式採用は1989年で、生産されたルクレールの第1号車がフランス陸軍に引き渡されたのは1992年1月14日だった。量産が軌道にのったのは1994年からで年産40両ほどが生産されている。ちなみに、フランス陸軍では40両で1個連隊(1個中隊に13両−1個小隊4両×3と中隊本部に1両。この中隊3つで1個連隊を編成する。残りの1両は連隊本部に配属されている)を編成するため、1年で1個連隊分の装備を賄っている事になる。当初は1400両を装備する予定だったものの、冷戦終結と、それによる軍事費削減のために、調達数は650両程度にとどまるといわれている。現在(2002年現在)でも生産中で状況如何によっては生産数も増やされる可能性はあるけども、まずそれはないだろう。輸出用としても盛んにアピールはなされているが後で述べるけども高価なため殆どの国から敬遠されていたものの、努力の甲斐もあって、アラブ首長国連邦への売り付けに成功していてルクレール戦車388両の受注を獲得した。ただそれ以外には輸出の例はない。余談ながらアラブ首長国連邦への輸出型はエンジンが指示によってドイツ製に換えられている。

 ルクレールの最大の特徴はエレクトロニクス技術をふんだんに使用している点にある。冒頭で「戦車のコンピューターは戦う電卓」と言ったけども、ルクレールはこの当時の技術を惜しげもなく使っていてまさに「戦うコンピューター」と言える戦車になっている。1つの大きなコンピューターで制御する方法ではなく、射撃・通信・操縦・環境センサーからくる情報などを別々のコンピューターで制御するいわゆる分散制御方法をとっているこれらは8ビットから32ビットまでのCPUで制御されている。「どうせなら全部32ビットの高性能なやつにすればいいではないか」と思うかもしれないが、やはり制御する装置によって分ける必要はある。たとえば8ビットCPUよりも32ビットCPUのほうが性能はいいに決まっているが、たとえば簡単な計算なら8ビットCPUの方が早い。「1+1は?」という問題で電卓使って計算するよりも人間の暗算で考えたほうが早いのと理屈は同じである。さすがにこれらを中央統制する必要はあるから、中型のコンピューターを2台搭載している。2台搭載している理由は、被弾の際に1台が壊れても機能損失しないように。余談ながら、土星探査機「ボイジャー」は1台が壊れてもいいように2台のコンピューターを搭載していたものの、土星に到着したときには2台とも壊れていた。ほんと余談でした(;_;)。これらのコンピューターは連隊司令部ともリンクされていて、連隊司令部では各戦車の状況が把握できるようになっている。たとえば地図もCG化が無論なされていて、どの戦車がどこにいて、その戦車の残弾や残り燃料などが把握できるようになっている。この情報は各々の戦車にもリークされている。つまり各戦車はお互いに見えない位置にあっても、どこにいるかがすぐにわかる。敵を発見してもすぐに情報を連隊司令部に送れば別の戦車にもすぐに通報できる。ある意味、パソコンゲームの世界だとも言えなくはない。ただ、弾が当たったら死ぬか死なないかの違いだろう。それでも充分な違いではあるが。
 ルクレールはこのように戦闘機なみのエレクトロニクス技術が使われていて、当然ながらコストも嵩んだ。ルクレール1両の値段の半分以上はこういったコンピューター用の値段だといわれている。
 ルクレールはこのようにコンピューターの充実が目ざましく他にはあまり目を奪われないが、他の特徴もかなりある。たとえばルクレールの主砲は120mm滑腔砲を採用している。これ自体は珍しくもなんともないけど口径がレオパルド2やM1A1エイブラムズの44口径と違って、より長い52口径の120mm滑腔砲を搭載している点にある。当然、初速が速く有効射程も長くなる。製造元のGIAT社の発表によれば「(ラインメタル社の44口径よりも)有効射程は1000mも長い」と言っているが実際のところはよく分からない。ただし、レオパルド2A5やM1A2エイブラムズでは同じ52口径120mm滑腔砲を採用しているので、その優位性は無くなった。些細な点として、ルクレールが採用した120mm滑腔砲にはエバキュレーターがない。
 その大砲を発射する機構も先進技術が取り入れられている。120mm滑腔砲を採用した戦車で90式戦車に次いで自動装填装置が採用された。自動装填装置の利点といえば、自動で大砲の弾が装填できるので楽チンだし装填手が不要になる。装填手が不要になるのは大きな利点でようはその分だけ車体を小さくできる。装填手は戦車乗員で唯一、体を動かす必要があるポジションだから、そのスペースは絶対に必要だった。もっとも、スペースといっても猫の額程度で、どこの国のどこの戦車のどこの装填手も狭い中を苦労して御国のためにセッセと弾を装填している。余談ながら、昔の装填手は戦車乗員で唯一、外部を見ることができないポジションでもあった。装填手が不要になれば戦車も兵士も助かる事だろう。欠点をあげれば、装填の信頼性がある。装填成功率は始めの頃はだいたい9割弱だったと言われている。10発に1発の割合で装填不良がおこるということで、これは大問題だと言えた。今ではかなり改良がなされ95%以上の成功率を誇るというが、実際の戦車搭乗員からすれば「100%にしろ!」と思う事だろう。戦車の場合は砲塔が360°回転するし、大砲の砲身も上下する。このため信頼に足る自動装填装置の開発は難しいことだといえる。ただ、重たい(20キロ前後ある)砲弾を人力で装填するのは大変だし、機械まかせにすれば相当早い。ルクレールでは1分間に15発も撃てるという。これは他国の戦車と比べてほぼ2倍の発射速度となる。弾は砲塔後部にコンベア方式で格納されている。ようは90式戦車とだいたい同じ構造で、徹甲弾やらHEAT弾やら榴弾をいれておいて、砲手が「榴弾を装填」とボタンを押せば一番近いブロックにある榴弾が装填される仕組みとなっている。90式戦車と違うのはコンベアに再装填する際にわざわざ車外に出なくても、車内の予備弾庫から充填が可能だという点にある。ただ、車内は狭いので安全な地域では車外から充填されると考えられる。
 あとの武装として、同軸機関銃と戦車長用の機関銃がついているけど、普通の国とちがって、同軸機関銃に12.7mm重機関銃がつけられて戦車長用に7.62mm機関銃(と資料に書かれてあるがフランス陸軍の7.5mm機関銃の可能性がある)がついている。その真意はよくわからないが戦車長用の機関銃はリモート操作が可能で全周撃てるから、連射速度が高い7.62mm機関銃がいいだろうと判断されたのだろうか?
 エンジンもフランスの技術を結集したものが作られた。馬力こそ1500馬力と他国の戦車と変わりはないが、排気量が16470ccでしかない。レオパルド2は44900ccで90式戦車でも約22000ccというのを考えれば相当にコンパクトに収まっている。この点もルクレールがコンパクトに収まった一因といえる。この「小さいエンジンで高い馬力」な理由は、ディーゼルエンジンにターボ装置(排気タービン)がついているのは無論として、その排気に燃料を吹き付けてタービンをより高速に回して空気を加給するという装置がついているからである。ただ、欠点もある。コンパクトに収めたのでかなり複雑な構造で、故障した場合は現地修理が不可能な点があるし、燃費もいいとは言えない。特に複雑な構造だというのは実戦向きではなく、アラブ首長国連邦に納品した際にエンジンをドイツ製に換えさせられた一因でもあった。
 文字通りの戦うハイテク兵器だけども、今の情勢を考えれば「贅沢すぎた戦車」としてその生命を終えそうな気がしないでもない。


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