4号駆逐戦車(ラング)(SdKfz 162)

全長:        8.50m
車体長:       ?.??m
全幅:        3.17m
全高:        1.85m
重量:         25.8t
装甲:     最大80mm
乗員数:        4名
武装:70口径75mm砲×1
    7.92mm機関銃×1
動力:マイバッハ
    300馬力ガソリン機関
走行性能:最大速度:35km/h
       航続距離:210km
総生産台数:1699両

(上記データは"ラング"のものです)
 ドイツには戦車猟兵という対戦車戦専門の部隊があった。戦前と大戦初期の頃は37mm対戦車砲と7.92mm対戦車ライフルの折衷装備だった。対戦車ライフルは補助みたいなものだったけども、1940年のフランス戦ですでにその威力不足は露呈していた。37mm対戦車砲の砲もフランス戦では撃破が難しい戦車もあったし、翌1941年のソビエト戦ではT-34戦車やKV-1重戦車には歯が立たなくなっていた。かくして大口径対戦車砲の登場となったけども、大砲を大きくすれば単純に考えても重くなるという事はわかる。しかも、ソビエトの道は悪路で、ちょっと雨が降れば泥沼にかわるほどだった。また、牽引砲の欠点として、悪路に弱く、たとえば大砲についている車輪以上の幅の溝があったらその時点で通行不能になった。かくして対戦車自走砲が作られた。マルダー2やナスホルンあたりが有名だけども、共通の欠点として防御力が弱い点があげられた。そこで、防御力をこれら対戦車自走砲に求めたのだった。
 4号駆逐戦車は名前のように4号戦車の車体をベースに作られた。全高は極力低く、また防御力は装甲を厚くする方法ではなく、傾斜を与えてより防御効果を高めるように考えられた。車体は上下に鋭角がつけられて、車体中心から下に命中すれば地べたに砲弾がいくように、車体中心から上に命中すれば空に砲弾がいくようにである。前面装甲は80mmととりたてて厚いものではなかったにもかかわらず、この傾斜装甲のおかげで防御力は相当にあった。
 搭載する大砲だけど、固定砲塔式では横に向けての射撃をしないから、戦車と同じ車体でも威力のある大砲が詰めた。だから4号駆逐戦車は当初はパンター戦車と同じ、70口径75mm砲の搭載を計画していた。しかし、この戦車砲はパンター戦車への供給で精一杯だったため、とりあえず4号戦車H型と同じ48口径75mm砲を搭載していた。ただ、内部(戦闘室)は70口径75mm砲搭載を考慮していたので、かなり広めに作られた。この48口径75mm砲搭載の4号駆逐戦車は769両が作られた。
 1944年8月から70口径75mm砲の調達のメドがたったため早速この大砲に搭載が切りかえられたのだけども、重量が結構あった上に重量バランスが崩れてしまった。そこで、8個の転輪のうち前2つを鋼鉄製転輪に変えた。そのために機動性は悪化してしまった。上で「当初から70口径75mm砲を計画していた」と書いたけども、この細かな点は見逃されていたのだろうか。ともあれ、攻撃力に限って言えば、西部戦線の連合軍(アメリカ・イギリス)の戦車を相手にした場合、1000mの距離ならば一撃で撃破可能であった。この4号駆逐戦車は「4号駆逐戦車/70(V)」と改称され(Vは生産していたフォマーグ(Vomag)社の頭文字)、「ラング」の名前もつけられた。大量に投入されたのは1944年12月のラインの守り作戦(バルジ作戦)からだった。ただ、固定砲塔の駆逐戦車を攻勢で使うにはどう考えても無理があったように思えるが(側面や後ろに撃てない)、2mを切る低姿勢や70口径75mm砲の威力は連合軍の度肝を抜いた。その後は防衛戦で活躍。この手の兵器はやはり防衛戦に適しているといえるだろう。ただ、ラング駆逐戦車の生産台数は930両で、数で押し寄せる連合軍に対してあまりにも数が少なすぎた。

 駆逐戦車と突撃砲は同じ固定砲塔で同じ低姿勢だけども、決定的に違ったのは突撃砲は本来は歩兵支援用で、駆逐戦車はハナから対戦車戦を考慮していた点にある。ただ、突撃砲も対戦車能力を要求され、長砲身の大砲を積んで戦車戦力の一翼を担ってくると、駆逐戦車と突撃砲の区別はつきにくくなった。駆逐戦車は上で書いたように本来は牽引対戦車砲の自走車両で、本当は戦車猟兵が乗っていた。ただ、戦局がドイツに悪化してくるようになると、駆逐戦車が突撃砲大隊に配備されたり(無論乗員は砲兵)、戦車の不足から、戦車部隊にも配備されるようになり(乗員は戦車兵)、余計に突撃砲と駆逐戦車の区別がつかなくなっていった。しかし、終戦まで突撃砲(Sturm Geschutz)と駆逐戦車(Jagdpanzer)の区分は統一される事はなかった。ある意味、ドイツでも日本のような融通の利かないお役所仕事がなされていたのかもしれない。


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