マルダー歩兵戦闘車

全長:        6.80m
車体長:       6.80m
全幅:        3.24m
全高:        3.30m
重量:          28t
装甲:         ??mm
乗員数:       4+6名
武装:20mm機関砲×1
    7.62mm機関銃×1
動力:600馬力ディーゼル
走行性能:最大速度:75km/h
       航続距離:520km
総生産台数:2136両

(上記データはマルダー1のものです)
 戦後になって誕生した兵器の中に「歩兵戦闘車」というジャンルがある。ようは純粋に兵員を安全に輸送する車両ではなく、歩兵は搭乗したままでも、また下車しても車両自体が戦闘力を有して戦える車両がそれだった。既存の兵員輸送車を装甲を若干強化して武装を強力にしたものと考えればだいたい正解だけども、歩兵戦闘車と名前があればそうなのだとも言えなくはないと思う(^^;)
 さて、歩兵戦闘車というジャンルの兵器は1967年のモスクワ軍事パレードの際に登場したBMP-1がインパクトが強く、これが世界初の歩兵戦闘車とも思われるが、実際に世界発の歩兵戦闘車はドイツ(当時西ドイツ)が配備していた。それは「SPZ12-3」というもので、20mm機関砲砲塔搭載のいわば歩兵戦闘車といえるもので、乗員3名で搭乗歩兵は5名だった。11人前後の1個分隊が主流なのになぜ5名という少ない乗員なのかはわからない。2両で1個小隊を編成していたのだろうか?。このSPZ12-3歩兵戦闘車はスイスの対空自走砲をベースに開発されたと言われるが、転輪が5個なので、どうしてもM41軽戦車「ウォーカー・ブルドッグ」の砲塔を取っぱらって20mm機関砲砲塔を乗せたようにみえるのは俺だけだろうか?。ともかく、これが世界初の歩兵戦闘車とされる。しかし、乗員の乗り降りは後部兵員室の天井しかなかった。つまり後方にハッチがなかったので、射撃の際は身を乗り出す必要があった。そのため最前線の歩兵の射撃は危険を承知で身を乗り出して射撃するか、それが怖いなら車内でジッとしてるしかなかった。それだけならまだいい。乗り降りの際は特に困ったはずで、特に最前線での下車の際は高い位置から行なうので射撃の目標になる危険が高かった。これは実戦では致命的だと考えられるけども、実戦でつかわれなかったのは幸いか?。
 マルダー歩兵戦闘車の開発開始はこんなSPZ12-3の欠点を改正する目的で行なわれた。上記だけの欠点ではなく、NBC防御能力がなかった事。また1963年に制式採用されたレオパルド1戦車(部隊配備は1965年9月から)の機動力について行けなかったという欠点もあった。ただし、マルダー歩兵戦闘車の開発開始は1959年には行なわれているという説もあるため、実際のところはよくわからない。制式採用されたのは1967年だった。奇しくもBMP-1と同じデビュー年だったけども、部隊配備はマルダー歩兵戦闘車の方が遅かったのは言うまでもない。
 武装は20mm機関砲砲塔(2人乗り)に7.62mm機銃を同軸機銃として搭載している。大砲用の同軸機銃なら話はわかるけども、機関砲に同軸機銃を付ける意味はよくわからない。また武装で他国の歩兵戦闘車に見られないものとして、7.62mm機銃銃塔を兵員室上部(車体後部上)に搭載していることで、これはさすがに人間が入る砲塔ではないから車内からリモート射撃ができるようになっている。この位置には搭乗歩兵用銃眼があるのになぜいちいち搭載したかという理由はよくわからない。「どうせ銃眼なんぞ走行中は振動でマトモに撃てないのさぁヽ(゚ ▽゚)ノ」という結論を知っていたのだろうか?
 マルダー歩兵戦闘車の一番の特徴は重装甲にある。他国の歩兵戦闘車は「浮いて渡れる事」の条件を満たすために、アルミ合金とか装甲を薄くしてでも浮航能力を付加しているが、マルダー歩兵戦闘車はそんなのはお構いなしに、重厚な装甲板を採用した。その装甲は20mm機関砲の徹甲弾でも貫通しないという。当然重量にも影響し、その重量は28.2tと歩兵戦闘車の中で最大の重さとなった。これは今でも破られていない記録でもある。当然浮航性は全くない。まぁ、こっちから攻める事もないし、西ドイツ国内のデカい川ってもせいぜいエルベ川ぐらい(ハンブルク近辺を流れている)だからだし、しかも一緒に進撃する予定のレオパルド1だって深い川は自力で渡れないから問題はないと考えたのだろうか?。この重装甲はソビエト軍を刺激してBMP-2からは73mm滑腔砲から貫通力の高い30mm機関砲に換えたのもこの影響だろうと考えられる。
 マルダー歩兵戦闘車は600馬力の高馬力エンジンのおかげで最大速度が75km/hとレオパルド1よりも速かった。無論、速いに越したことはない。この高速性は後のレオパルド2の速度(72km/h)にもついてこれたからその功績は大きかったろう。なにせ開発費用がういたのだから。また、別の功績として、そこそこに重厚だったため、このマルダー歩兵戦闘車には派生型の車両も多く特に有名なのはローランド2対空ミサイル車両だけども、このマルダー歩兵戦闘車に105mm砲砲塔を搭載した戦車もある。ただ、どう考えても無茶だと思う。俺は思う。他の人は知らない。
 マルダー歩兵戦闘車はA1、A2、A3と改良されていった。HEAT弾対策でスペースドアーマーを採用したり、対戦車攻撃力を増すためにミラン対戦車ミサイルを搭載したりしている。また後継車両としてマルダー2歩兵戦闘車も作られた。これは1990年代初めに作られたものの、1991年にドイツ統一、翌年にはソビエト崩壊と社会的変化があったために配備は進んでいない。十分つかえるマルダー歩兵戦闘車の改修でなんとか間に合わせている状況である。
 欠点とは言えないだろうが、マルダー歩兵戦闘車は左ハンドルで他のドイツ戦車とは逆だけども(レオパルド1・2は右ハンドル)、この理由もよくわからない。


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