95式装甲軌道車

全長:        4.90m
車体長:       4.90m
全幅:        2.56m
全高:        2.43m
重量:  8.7t(全備重量)
装甲:      4〜8mm
乗員数:        6名
武装:なし
動力:84馬力ガソリン機関
    空冷4サイクル6気筒
走行性能:線路上72km/h
       道路上30km/h
総生産台数:121両
 日中戦争に限らず、第2次世界大戦での輸送手段は鉄道だった。ノルマンディ以降の連合軍のようにトラックのピストン輸送の例外はあるものの、他の国は大抵が鉄道だった。道路整備があまり進んでいなかったのと、トラックが必要数確保できなかった理由もあるけども、日本とドイツに限っていえば燃料の問題だった。両国とも石炭は相当産出したけども、石油が双方とも取れなかった。
 言うまでもなく、鉄道は線路が破壊されたら終わりである。そのため比較的ゲリラの破壊対象物となっていた。対抗手段としては線路に警備兵を置くか常に装甲列車で警戒しておく必要があった。警備兵を置く方法は長い長い線路上に置きっぱなしにする兵力もあろうはずもなく、装甲列車での警戒も図太いやつをエッチラエッチラと往復させるにも手間がかかるし、だいいちそんな事していたら、本チャンの輸送に支障をきたす。そのため小型で線路を走れる装甲車が望まれたのは無理もない。
 95式装甲軌道車は昭和10年に試作車が完成し、その年に制式採用された。ただし、秘密兵器のため、開発経緯が分からない。上記の理由だというのは想像に固くはないが。
 95式装甲軌道車の最大の特徴として、線路外を走れるようにキャタピラがついていた。線路を走る用の車輪は別についていた。各国でも、特にドイツでは普通の自動車のタイヤの内側にやや大きい鉄の車輪をつけて、その鉄車輪とゴムタイヤを鉄道の車輪に見立てて鉄道兵器不足の代用とした例はあるけども、キャタピラ式で線路を走れるようにした車両は量産車両では世界中探してもこの95式装甲軌道車しかない。使用用途は警戒が主任務だったけども、線路上では車輪抵抗が少ないので84馬力の非力エンジンでも時速72キロと当時にしては結構速く走れた。このため輸送用の貨車(91式貨車)も引っ張れた。ただし、その時は時速40キロまで速度が落ちたものの、さしては問題はなかった。
 95式装甲軌道車は鉄道連隊に配備されたため、固有の武装が認められなかった。「固定武装を付けると戦闘部隊用の車両である!」といういつものナワバリ争いの結果だと言われている。だから、武器を持たないのは任務上マズいので、銃眼がついており、中の兵士はライフルなり軽機関銃なりで応戦した。いわば苦肉の策であったのだが、銃眼搭載の装甲車両は当時としては珍しかったとも言える。ピストルポート程度なら戦車にもあったけど。
 線路の上だけでなく、線路外も走る事ができたため、外部からの機械(クレーンなど)がなくても線路から離れる事もできた。線路から線路外に出る場合は1分で済んだという。逆に線路に入る場合は外からの誘導があれば3分程度で済んだ。
 戦績が残っている事例は、昭和12年の石家荘付近で、単独で行動中の95式装甲軌道車がふと中国軍の装甲列車に出くわして、相手に気づかれないうちに線路外に飛び出して側面から攻撃をしかけた。中国軍は戦車が攻めてきたと誤認して戦わずに逃げ出した。かくして95式装甲軌道車は損害なくして見事に敵の装甲列車を捕獲したという。
 ただし、日中戦争時の記録写真を見る限り、この95式装甲軌道車が写っているのを全くといっていいほど見かけない。これは秘密兵器だったからだといわれている。また、95式装甲軌道車はゲージが狭軌・広軌・ロシア軌道の3つ全てに対応しており、全ての路線で通れた(今では普通はユーロ軌道を標準軌、ロシア軌道を広軌と呼んでいるけども、当時の日本ではユーロ軌道を広軌と呼んでいた)。そのため、狭軌がひいてあったビルマでも活躍している。
 結局は秘密兵器であったがために活躍はさほど伝わらず、また、損害なども不明。戦後、アメリカ軍が1両を研究のために持ちかえった記録がある。また、中国の北京軍事博物館では今でも展示されていると言われている。


 95式装甲軌道車は見た目には砲塔がない戦車に見える。外見上では線路を走れるなんて見えない。線路を走るときは車体下の車輪をニョキニョキ下げてそこを動かす。この機構は第一次世界大戦でも見受けられたけども、ムダな出力が多く全てが使い物にならなかった。これを克服した日本技術陣にはすごいなぁと思う。装甲は最大8mmで大砲を装備している部隊に出くわしたらひとたまりもないと思えるのだが、警備任務が主体だったのでさほど問題はなかったのだろう。また、カタログデータを見る限りでは95式軽戦車よりも一回り大きい程度だけど乗員は倍の6人。しかも戦闘中は銃眼での射撃だったので中の乗員はさぞ窮屈な思いをしたのではなかろうか?。
 興味本位ながら、この95式装甲軌道車が線路を走っている姿を、ぜひ見てみたいと思ってならない。きっとキャタピラも回さず走行するこの95式走行軌道車を見た中国軍兵士は、戦車のお化けと思ったのではないか?そんな気がしてならない(^^;)


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