特2式内火艇(カミ)
全長:        7.50m
車体長:       ?.??m
全幅:        2.80m
全高:        2.30m
重量:        12.5t
装甲:    6mm〜12mm
乗員数:        6名
武装:37mm砲×1
    7.7mm機関銃×2
動力:115馬力ディーゼル
    直列空冷6気筒
走行性能:最大速度:37km/h
       (海上は9.5km/h)
総生産台数:184両
 上陸作戦は迅速さが要求される。理由は言わずと知れた事だけど、第2次世界大戦でも装甲兵力の迅速な上陸が要求されていた。普通は揚陸艦が浜辺まで突っ込んで艦首の扉を開いてから戦車なりを上陸させるけど、いい的になるし、いろいろな問題が生じる。一番いいのは戦車を浮かべて自力で上陸させる事だけど元々が鉄の塊な戦車なので、その方法にはいろいろ苦心する事となる。
 ドイツでは潜水式戦車を開発し、敵砲撃射程内ギリギリまで輸送船で運んで戦車をもぐらせて(沈めてという表記が正しいかもしれない)キャタピラで進む方式で解決しようとした。この方法は自分の居場所がわかりにくくなり攻撃を受けにくいという利点以外は欠点が多かった。いちおうシュノーケルがあったけども、空気供給量が需要(エンジンへの空気供給量)には足りず20分以上潜らせておくと一酸化炭素が充満してしまい、乗員が中毒死してしまう危険があった。また、前が全く見えないので何らかの障害(大きな岩など)があった場合はその場で走行不能になってしまった(いくら浮力があるとはいえ重い戦車は常に走らせておかないと海底の砂にめり込んでしまうので)。
 アメリカではDD(Duplex Drive)装置を開発してM4シャーマン戦車につけてノルマンディー海岸に上陸した。キャンパスを使って戦車をぐるりと覆って浮力を確保したのだが、シケに弱い・浮航時に射撃ができないといった欠点もあった。シケに弱いというのは致命的で、実際、ノルマンディー上陸作戦ではM4シャーマンDD仕様は沈没した車両も多かった。
 最後は、車両自体を浮かせるという事で、これは今でも応用されている。アメリカのLVTシリーズがつとめて有名である。手間もかからず、上陸の際にも機敏に行動できるという利点がある。欠点といえばあまり重くできないので装甲が薄くなるというのが欠点といえば欠点だった。しかし鉄砲の弾程度なら跳ね返せる。
 特2式内火艇は車体の前後にフロートをつけて浮かせるようにしている。この発注元は海軍だけど、海軍には装甲車両を作るノウハウがないため、陸軍技術本部に製作を依頼する。技本では95式軽戦車をベースに開発を行った。設計は上西甚蔵技師が行い、製作自体は技本ではできないから、三菱重工東京機器製作所で行われた。試作車両は昭和17年に完成し、すぐに「特2式内火艇」として採用された。「カミ車」とも呼ばれたがこれは設計技師の上西甚蔵技師の名前からとっている。
 特2式内火艇の運用方法は、潜水艦で運んで上陸予定地沖から潜水艦を離脱して発進させて、奇襲効果を狙うものだった。そのため特2式内火艇は水密構造となっていた。しかし完全な防水構造とはならず、また、水圧にも耐えられる構造ではなかったので、エンジンは取り外して潜水艦内に納めて、発進の際に搭載する予定だった(車体自体は潜水艦の上甲板に搭載する予定だった)。この作業は30分はかかり、慣れた乗員でも20分はかかった。結論からいうならば、この発進方法では使用はされなかった。理由として、防戦では奇襲上陸の意味もないしだいいち、輸送する潜水艦の数がそろわなかった。奇襲逆上陸を行ったレイテ島オルモック湾による上陸作戦では呉鎮守府特別陸戦隊の伊東戦車隊が投入されたものの、その時は潜水艦ではなく二等輸送船が用いられている。結局は潜水艦による攻撃でこの特2式内火艇は半減。上陸に成功した10両も結局は全滅した。
 話はさかのぼって特2式内火艇の初陣はサイパン戦で、通常の戦車として使用されているものの、ここでも役に立たなかった。理由は簡単である。陸地に上がってしまえばただの軽戦車に過ぎなかったからである。パラオ・ルソンでも同じ運命をたどった。
 特2式内火艇は、車両なのに"艇"とつくのは秘匿するためという説もあるが、実際の所は海軍所属なので"船"として扱ったというのが正しいといえる。実際、艦籍簿に登録されていた。


 特2式内火艇は上で書いたように95式軽戦車をベースに開発されている。ただし、実物を見てもとても95式軽戦車がベースとは思えない。水密構造にするために、ボルト止めだった装甲板は全周溶接になっているし、キャラピラも誘導輪(一番最後の輪)が接地式になるなどの違いがある。しかし中身はほぼ同じで、電気系統はほぼ同じだという。特2式内火艇は後ろにスクリューがついていて、海上航行する際はキャタピラ駆動力を止めて前部スクリューに力を出せるようになっていた。時速9.5キロは出せたという。フロートは上でも書いているけど着脱式で、海上を航行後上陸したらレバー1本で外せるようになっている。なかなか便利な構造だけど、一度外したらはめるのが難しいから再度海を航行する事は事実上不可能だった。
 実は、アメリカ軍もM4シャーマン戦車用にこの特2式内火艇のようなフロートをつけた装置を開発していた。上で書いているけどノルマンディー上陸で使用されたDD装置は荒天に弱く、浮航中の射撃ができなかった。そのために開発されたのだが(T6浮航装置といわれていた)、実際に使用された沖縄上陸戦では評判はよくなかった。理由はこのフロートを付けると全長が14mにもなってしまい、珊瑚礁につっかえたり、輸送船からおろすときに非常に手間だったからである。結局はその後は仁川上陸作戦を除いては大規模な上陸作戦は行われなかったため、戦車を海上走行させる方式は放棄された。しかし歩兵を安全に上陸させる事は重要で、アメリカ軍は今でもLVTシリーズを開発しており、海兵隊で重宝されている。
 「戦車に浮力を」というのは今でも熱望されているものの、物理的に難しい。特2式内火艇も一種の「アダ花」だったのかは知らない。


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