T-62戦車

全長:        9.30m
車体長:       6.60m
全幅:        3.30m
全高:        2.40m
重量:         40.0t
装甲:       ???mm
乗員数:        4名
武装:62口径
     115mm滑空砲×1
    (40発搭載)
    12.7mm機関銃×1
    7.62mm機関銃×1
動力:580馬力ディーゼル
走行性能:最大速度:50km/h
       航続距離:450km
総生産台数:???両
 兵器には、使われたからこそ真価を発揮した物と使われたから欠点が露出した・・・ようは使われないほうがよかったという兵器も少なくない。前者の代表はF-4ファントム2戦闘機といえる。これはずんぐりした形で、搭乗員からの評判はよくなかった。ハッキリいえば最悪だった。「アヒルのような機体」「逆さまにして(軍に)引き渡されたかと思った」などと揶揄されたものの、ベトナム戦争でその真価を発揮。総生産数も5195機と驚異的な数が生産され、日本を含めてまだ現役で使用している国が多い。後者の代表といえば、以下に紹介する、このT-62戦車が該当するのだろうか?
 第二次大戦でソビエトの85mm砲搭載のT-34/85戦車はその威力を発揮したものの、朝鮮戦争では90mm砲搭載のM26パーシングに敗れた。そこで100mm砲搭載のT-55戦車を作ったものの、西側も負けじと105mm砲搭載のM60戦車を作った。そこで、さらに上をゆく115mmの大砲を搭載したこのT-62戦車を作った。
 T-62戦車の開発開始時期はよく分からない。ただ、1960年には生産が開始されている。このT-62戦車にはいろいろな新機軸が設けられた。
まずは、煙幕装置で、これは普通の発煙筒式ではなく、エンジン排気に燃料を吹き付けて白煙を発生する装置で、これを使えばやられたフリもできる。実際にそういう用途で使われるのかは不明。ともあれ、これ以降のソビエト軍戦車にこの装置は採用され、アメリカ軍の装甲車両にもパクられた。
次に、少しでも発射速度を上げようという意味か、自動排莢装置もつけられた。
乗員の配置も、装填手の前後に砲弾庫が設けられ1発でも多くの戦闘弾数(ようは戦闘中に使える弾数。普通の戦車は弾庫が分散しているので、総搭載数=戦闘中に使える数、ではない。戦闘の合間に装填手の近くの弾庫に入れ替える必要がある)を稼ぐ乗員配置が行われた。そのため戦車長は上からみて左に配置されている(普通の戦車は右)。後述するけども、この配置は実戦では問題となった。
 あと、これが最大の特徴だけども、115mm滑空砲が搭載されたという点。115mmという中途半端な口径ではなく、滑空砲が搭載された点が大きい。これはHEAT弾を発射する際に弾に回転を与えてしまうとジェット噴流が分散してしまうために、滑空にして回転を与えず、HEAT弾を撃ちこめる利点がある。ただ、徹甲弾発射の際は回転を与えないで発射すると弾道がまっすぐ飛ばないので、小さい翼をつけて安定を図っている。ちょうどダーツの矢みたいな感じになっている。また、滑空砲は生産に手間がかからず、ライフル砲砲身よりも寿命がながいせいもあって、世界各国で採用されるようになった。ただ、T-62に限っていえば、115mm用のHEAT弾が開発されていたかがわからず、滑空砲にした真意はよく分からない。
 あとは、ソビエト戦車のお得意である、車高の低さ。T-55戦車と比較しても、全長が30cm長いけども車高は逆にT-62戦車の方が低くなっている。車高が低いという事はそれだけ投影率が低いので戦術面では大きなプラスになる。・・・筈だった。
 T-62戦車の完成・配備は西側諸国に大きなショックを与えたものの、同時期の西側スタンダートのM60戦車とT-62戦車が対決する時がやってきた。1973年の第4次中東戦争で、シリア軍がT-62戦車を装備して、M60戦車装備のイスラエル軍と戦った。ただ、イザ実戦に投入してみると、意外とT-62戦車の方が欠点が多かった。まずは、車高の低さ。T-62戦車はM60戦車に比べて1mも低かったものの、起伏の多いゴラン高原ではこの車高の低さが裏目に出た。右図のように車高の低いT-62戦車は俯角が取れず、イスラエル軍戦車にやられた。もっとも、ノモンハンやクルスクみたいに起伏の少ない平原での戦闘を目的としているソビエト戦車なのでしょうがないといえばそれまでなのだが。
また、T-62戦車の車高の低さは居住性の悪さも欠点となった。また、乗員の配置は、車体の上から見て、左に、操縦手・戦車長・装填手・が前から一列に並んでいるけども、そのために、前方から見て、車体右側に命中した場合、3人いっぺんにやられるので、ここにダイレクトヒットしてしまうと1発で戦闘力が奪われてしまった。
 捕獲したT-62戦車を調べると、自動排莢装置も大砲を最大仰角にしないと作動せず、そのため、手動で排莢をしていたと考えられ、これを狭い車内で行うにはすごく大変で、実際の所、M60戦車の半分の発射速度ではなかったかと考えられる(M60戦車は1分に6〜8発撃てた。乗員の技量で差がでてくる)。
 装甲も対したことはなく、105mm砲は2000mの距離でもT-62戦車を撃ち抜けたものの、T-62戦車は1000mが有効射程で、2000mになってくると命中精度が落ちた上に当たっても真正面に当てたなら弾かれた。命中精度の問題は、ライフル砲と滑空砲の差ではなく、FCSの性能の差が大きい。
 ともあれ、捕獲したT-62戦車を徹底的に調査したイルラエル軍での評価はあまり芳しくなく、サシの戦いならM60戦車の方が圧倒的に有利である事がわかった。そこで、数で押すという戦術もあったのだが、残念ながら当時のシリア軍の主力戦車はT-55戦車でT-62戦車は全体の4分の1ほどしか配備されていなかったといわれている。また、乗員の技量の差も大きかった。質も両も負けたのだった。
 1977年にはT-62戦車の性能向上型として、T-62Mが作られた。大まかな変更点は照準装置にレーザーレンジファインダーを追加装備し、敵との距離がより正確に測定されるようになった。また、FCSもT-72戦車に準じたものが装備されたと言われている。また、追加装甲も施され、砲塔1周に追加装甲があるし、車体にも追加装甲がある。これは複合装甲か、中身が中空の対HEAT弾攻撃用の装甲かとも考えられる。また、サイドスカートも追加され、いままでの「丸っこい戦車」から「ごっつい戦車」になった。攻撃力以外は、T-72戦車と同一とも言われているが、分からない点が多い。
 今でも配備している国は多く、特に北朝鮮ではさらに改良を加えて敵(韓国)の88式戦車に対抗できるような装備を施していると言われる。実際の所FCSが相当劣っているという。
 ともあれ、第4次中東戦争でT-62戦車はM60戦車にかなわなかった事もあり、今での評価はあまりよくはない。「世界ではじめて滑空戦車砲を搭載した戦車」という評価しかなされないと言ってもよい。その意味では、「実戦で使われたがゆえに不幸な運命をたどった」とも言える。


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