↑アメリカの探査機「ボイジャー2号」が撮影した木星の写真。
ボイジャー探査機が木星に接近する以前にパイオニア探査機が撮影を行っているが不鮮明であったがゆえに、
このボイジャー探査機の鮮明な木星の写真はNASAを、そして全世界を驚愕とさせた。
木星の情報 |
赤道半径 | 71492km |
軌道半径(平均) | 5.203AU |
質量(地球=1) | 317.83 |
密度 | 1.33g/cm3 |
赤道重力(地球=1) | 2.37 |
自転周期(地球日) | 0.414日 |
公転周期(地球年) | 11.86年 |
赤道傾斜角 | 3.1° |
脱出速度 | 59.54km/s |
木星は太陽系最大の惑星で、その質量は木星と太陽以外の全てをあわせた2.5倍もあると言われる。その大きい質量のために他の惑星に大きな摂動を与える。また、木星の重力のため太陽系全体の重心は太陽の表面近くの外にある。つまりは、太陽系の惑星の軌道面から垂直方向の星から太陽を観測した場合、太陽表面近くを基点に約12年周期でくるくる回って観測される事になる。
木星は大きいが故に明るく光るために太古の昔から知られており、当然であろうが、初めて見つけた人の名前は分かっていない。中国では木星の回帰年(元の天球に戻る時間。いわゆる公転周期)がほぼ12年であるために、干支の数にちなんで「歳星」とも呼ばれていた。
木星は簡単にいえば水素とヘリウムの塊である。中心部に地球ほどの岩石の核がある。さらに内部には鉄の核があると考えられる。その岩石の核の外側には液体金属の水素がある。あまりに高圧のために水素が金属化したものである。その外側には液体水素が、さらに外側には気体の水素がある。その外側である表面は大気層となっており、水素ガスの流動が縞模様となって我々でも観測ができる。
この縞模様は木星の特徴の1つで、濃い部分(「しま」と呼ばれる)と薄い部分(「帯」と呼ばれる)がある。濃く茶色っぽい部分はいわゆる低気圧状態で、薄く白い部分は高気圧状態となっている。
縞模様を作っている原因はこの他に、木星自体の早い自転もある。木星の自転周期は9時間56分でこれは太陽系の惑星の中では一番速く。一番デカい惑星が一番速く動くのだから大気がその動きに追いつけず、緯度によって自転の差異があるからでもある。ちなみに、極付近のほうが短い距離なので速いようにも思えるが、実際には赤道付近のほうが自転速度が速い。自転速度が速いために木星は横にひしゃげている。南北直径と東西直径が約9000kmも違っている。
木星の特徴の1つに大赤斑がある。1664年にイギリスの天文学者フックが発見したが、その発見以来、1度も消えずに340年以上も見えている。そのために探査機が調査する以前は、大赤斑が何かというのが分からなかった。地球の台風に似た現象だろうと思っていた人もいれば、木星の高い山ではないかと思っていた人もいた。実際、探査機が木星に到達する直前の1970年頃に発行された図鑑には「木星の山ではないかと言われています」と堂々と書かれていたりもした。木星は先に書いたように水素とヘリウムのガス惑星なので、山はない。山どころが地球や金星のような地面の表面すらない。
大赤斑は南北方向に約13800km、東西方向に約38500kmほどもあり、地球が横に2個すっぽりと収まるほど巨大である。この大きい斑点は探査機が詳しい調査を行った。大赤斑は周囲から14kmほど盛り上がっていることがわかり、いわゆる「高気圧」であることがわかった。つまりは巨大低気圧の台風ではないことになる。また、大赤斑は6日で一回転することもわかった。回転方向は左回り(反時計方向)であるから、たしかに地球でいう「高気圧」ということになる(日本では反時計回りは低気圧だが、南半球では高気圧の回転方向。大赤斑は木星の南半球にある)。
ただ、大赤斑がなぜ消えないのかは分からなかった。上で書いた縞模様の濃い部分と薄い部分のちょうど中間にあるために、高気圧がうまくその気流に乗ってるんじゃないかという説もあれば、ソリトン(孤立波)という壊れにくい波の一種じゃないかという説もあり、結論は出ていない。ちなみに、同じガス惑星である土星には大白斑が、海王星には大黒斑が形成されることもあるが、数ヶ月後には消えてしまう。それが故に大赤斑の謎は深まるばかりだといえる。
探査機を派遣して分かったことだが、木星には淡い輪がある。土星のそれと違って小さなもので、地球上からはその輪は見えず、宇宙望遠鏡を使っても見えない。パイオニア号が木星を観測した時のデータから輪の予測はされていた。次に到達したボイジャー号が木星を逆光で撮影した時に木星の輪の存在をつきとめた。光の反射の様子からその輪は小さい岩石の粒から形成されていると考えられる。恐らくは木星に近づきすぎた衛星がロッシュの限界点を越えたために破壊されたのではないだろうか。
木星の衛星は2007年末時点で62個が確認されている(未確認が1つ別にある)。そのうち内側から数えて15個までが木星の自転と順行し、それから外の衛星は全て逆行(木星の自転とは逆方向に)している。恐らく、木星の衛星の大半は木星の強力な重力に引き寄せられた小惑星であろうと考えられる。逆行しているのはほぼ全てが木星の重力に捉えられたと考えられている。木星の衛星は発見時に小惑星だと思われたのも少なくないし、名前が付いていない衛星がいくつもある。
よく知られた事実だが、そのうち大きな衛星4つ(イオ・エウロパ・ガニメデ・カリスト)はガリレオ・ガリレイが発見している。そのためにこの4大衛星は俗に「ガリレオ衛星」と呼ばれる。実際にはガリレオ以前に木星の衛星と知らずに発見した人がいたらしいが、木星を周回する星として発見したガリレオの功績は変わることはない。ガリレオ衛星は地球上から見た場合、ガニメデが5等級の星として見え、その他は6等級の星として見える。目がいい人間がギリギリ確認できる星は6等級なので理屈の上から言えば、太古の昔から知られていそうなものだが、実際には木星自体が明るすぎるためにその光で遮られてしまうから目視で確認した人はいないと考えられる。目視で6等級の星までつぶさに調べ上げた16世紀の天文学者「チコ・ブラーエ」でさえ木星の衛星を確認したという記録はない。ただ、他の衛星に比べて明るい事に違いはなく、ガリレオ衛星は双眼鏡でも観測が容易にできる。
木星へ探査機を飛ばしたのは2007年現在、アメリカしかない。木星まで飛ばせる技術力・資金があるのはアメリカしかないということだろう。木星へ向かった探査機はパイオニア10号・11号、ボイジャー1号・2号、ガリレオ、カッシーニ、ニューホライゾンズがある。ただ、ガリレオ以外は通過ながらの探査である(ニューホライゾンズは単にフライバイ時にカメラなどの機器チェックのために木星を観測しただけであるため探査とはいえないかもしれない)。
最近では木星そのものよりも、木星の衛星であるエウロパの感心が高まっている。エウロパは氷で覆われている下に水の海があるといわれている。これは木星の潮汐力の働きによる、簡単にいえば木星の重力でエウロパ自体がもみくちゃにされてその軋み(きしみ)で火山活動が発生して熱水が噴出していると考えられている。通常、生物は太陽光なしには生きていられないと考えられていたが、1970年代末の深海調査で、太陽光があたらない深海での生物が確認されており、しかもその食物連鎖は地上とは完全に独立していた。海底火山での熱水の影響で生まれたバクテリアを基点にした食物連鎖が深海では生まれていた。つまりはこれと同じ状況がエウロパ内でも起こっているのではないかという考えによる。そのために探査機ガリレオは木星探査中、燃料切れで制御不能になってエウロパにぶつかる可能性がでてきたために、ガリレオ自体に付着した微生物をエウロパで繁殖させないように(宇宙空間という真空の中を通ってきた探査機に生物がいるわけないと思うかもしれないが、単細胞生物であれば真空中だろうと結構生き延びられるらしい)木星に突入させられた。
ただし、エウロパ自体の調査はまだ行われていないし、そもそも、生物がいる確証があるわけではない。
木星を背景に公転する、木星の衛星「イオ」
見る限り木星のごく近くを公転しているように見えるが、実際には木星の直径の3倍の位置を
公転している。
イオは地球の月とほぼ同じ大きさで、母体惑星からの公転半径もだいたい同じである。
(月=約38万km、イオ=約42万km)
いかに木星が巨大であるかを理解できる一葉である。
ちなみに、この写真の撮影は土星探査機のカッシーニが行っている。
たまたま立ち寄ったのではなく、スイングバイを行うために木星を通過し、
機器チェックも兼ねて木星を調査・撮影を行った。
ボイジャー1号が撮影した、木星とガリレオ衛星。木星に重なって見えるのが「イオ」
木星の右にあるのが「エウロパ」。木星の下方にあるのが「カリスト」
この写真には太陽系最大の衛星「ガニメデ」は写っていない。
木星の模様と相まって、幻想的な風景でもある。
土星探査機「カッシーニ」が撮影した、木星と木星の衛星「ガニメデ」
ガニメデは惑星の水星よりも大きい。
ガニメデは表面の殆どが氷で覆われた衛星で、明るい部分と暗い部分がある。
明るい部分は、地殻変動で地形が新しくなっている場所ではないかと言われている。
ガニメデに限らず、全てのガリレオ衛星に言えることだが、
公転周期と自転周期が全く同じである。
つまり、地球の月と同様、同じ面を常に木星に向けていることになる。
木星のオーロラ。
木星には地球と同じく磁場があるため、地球のオーロラと発生する原理は全く同じ。
ただ、太陽との距離や大気の組成が違うので形や色は異なる。
地球のオーロラは太陽風の電子やイオンが酸素分子や窒素分子に衝突することによって
光が発生する現象だが、木星には酸素・窒素はほとんどない。
木星のオーロラは衛星「イオ」の火山ガスが木星に滞留して発光しているという説がある。
木星の輪。正確には「環」と表記するのが正しい。
ボイジャー2号がふり向きざまに撮影した。
たまたま撮影したのではなく、木星の輪はパイオニア探査機の観測データから存在が予測されていたために
予定の位置から逆光で撮影したもの。
光の加減から、この輪は岩石の粒で形成されているらしい。
木星の輪は淡いために、地球からの観測はできない。
ガリレオ衛星(↑の画像をクリックすると大きい画像が見られます)。
左から「イオ」「エウロパ」「ガニメデ」「カリスト」。
大きさの比率は実際とほぼ同じ。
大きさ的には左端のイオが地球の月とほぼ同じと考えればよい。
木星探査機「ガリレオ」が撮影したイオ。
イオは火山活動が活発で、これはボイジャー探査機でも確認されている。
17年後にガリレオが探査した所、ボイジャーが探査した頃と様子が変わっていた。
つまり猛烈ともいえる火山活動が行われている。
上の写真で黒い部分は最近火山活動がおきた地域で、赤い部分は硫黄かなにかの噴出物だとされる。
黒い部分の白いものは火山ガスの霜だといわれている。
ちなみに、太陽系の中で現在進行形で火山活動が行われているのが確認されているのは
地球とこのイオのみである。
ボイジャー1号が撮影したイオの火山活動の瞬間。
イオの火山活動が活発な理由は木星の潮汐力によってきしみながら公転しているため。
簡単にいえば木星のよってもみくちゃにされながら動いているためその摩擦力がエネルギーとなっている。
この写真は上の写真とほぼ同じ位置でとられている。
この写真の下部やや右の黒点部と上の写真の赤い輪の2時部分にある黒丸は同じ火山である。
たった17年でこの小さい火山がここまで噴出したのである。
木星の衛星「エウロパ」。
見た目にはそうは見えないが氷で覆われた衛星で、しかも氷の下には海があるとされる。
赤っぽいのはひびわれた氷の下からなんらかの物資がにじみ出たと考えられる。
その根拠として、クレーターがほとんどないことがあげられる。
上の写真で言えば左上あたりに衝突痕があるが、最近何かがぶつかったのだろうか。
衝突痕が銃弾に撃たれたガラスのようなひび割れのようになっているのも
氷の下に海があるという絶好の根拠といってもいいだろう。
(氷だけならひび割れは発生せず、クレーターができるのみである)
最高気温がー150℃の世界であるエウロパになぜ水の海があるかというと、
本文でも触れたが、イオ同様に木星の重力でもみくちゃにされたエウロパは海底火山があるからではないかと言われている。
つまり、地球の海底火山みたいなのがあると想像されている。
地球の太陽の光がまったく届かない海底のチムニー近辺で地上とは完全に独立した食物連鎖を持つ生態系がいるように
エウロパにも同じ生物がいるのではないかという推測がある。
ただ、地球の海底生物は太陽の届く水中から分化していったものと考えれば
エウロパに生命がいる可能性は低いといわざるを得ないだろう。
エウロパ表面の拡大写真。
見たように氷が剥離して動いているように見える。
恐らくは氷の下の海が対流しているのだろう。 |