↑アメリカの探査機「マリナー10号」が撮影した金星の紫外線写真。 紫外線で写真撮影をしたのは雲の状況を見やすくするため。土星探査機でも同様の理由で紫外線写真撮影を行っている。 実際の金星は雲の影響で白く見える。
金星は地球と大きさが似ている。そのため地球の兄弟星とも言われている。他の惑星もそうであったように、長らく金星も内部がどうなっているかは分からなかった。地球と大きさがだいたい同じだから重力もそう違わず、また大気があるらしいことも分かっていたから、地球のような文明をもった生命はいないにせよ、原始的な生物がいるのではないかという憶測をされた時期もあった。 1960年代初めから、主にアメリカとソビエトが探査機を飛ばして観測した結果、金星の大気圧は90気圧、地表の平均温度も465℃というのが分かり、生物の存在は絶望視された。 金星の大気のほとんど(96%)は二酸化炭素だが、金星をほぼ覆っている雲の主成分は硫酸でできている。この雲からは硫酸の雨が降るが、地表にたどり着く前に蒸発してしまう。 金星の自転は他の惑星とは逆に回転している。つまり公転の回転とは逆(太陽の北極側から見て時計方向)に回転していることになる。なぜ逆回転しているのかはよくわかっていない。惑星の創成期に巨大原始惑星と衝突した際に自転が逆になったのではないかとも言われている。金星の自転周期は243日でこれは公転周期の225日よりも長い。ただし、公転とは逆に自転しているので常に太陽面に同じような方向を向けているわけではなく、金星の1日(日の出から次の日の出まで)は116.8日となっている。 金星の表面は微風(風速1m程度)は吹くものの、平均してほぼ穏やかだといえる。ただし、雲がある地表から50km以上では風速100m以上と台風以上の風が常にふいている。実に4日(地球における4日)で金星を一周する計算になる。上でも書いているように金星の自転速度はきわめて遅いのに(赤道上で1秒間に1.6mぐらいしか動かない。ちなみに地球は1秒間に30kmほど)なぜこんな強風が吹くのかは分かっていない。ただ、同じように自転が遅く大気がある土星の衛星「タイタン」でも同じような現象が起こっているので自転が遅い星には普遍的に起きる現象なのではないかという説もある。 金星は表面のほとんどが雲で覆われているために地面の状態がよくわかない惑星でもあった。ただ、ソビエトの探査機が軟着陸に成功して表面の写真を送ってきたし、同じソビエトの観測機がレーダー観測で金星表面の地図を作成したりもしたが、1990年にアメリカの探査機「マゼラン」が金星の地表の98%をレーダー観測で地図にすることに成功した。この地表地図を見ると、金星にはクレーターが少なく、また、直径3km未満のクレーターが存在しないことがわかった。直径3km未満のクレーターがない理由は大気圧がありすぎて、小さい隕石は途中で蒸発してしまうためだと考えられる。クレーターの数が少ない理由としては、地球のように水がなく強風も吹かないため侵食されたのは考えにくい。どうやら、金星では8億年ほど前に地表の多くで活発な火山活動が行われ、大量のマグマが流れたために、それ以前のクレーターが消えてしまったと考えられている。 探査と観測の結果、金星には磁場がないことが分かった。ちなみに、磁場がない惑星は金星のみである。磁場がないということは太陽からの有害な太陽風をモロの浴びるということであり、この点からも金星に生物の存在は難しかったと言える。惑星に磁場ができる原因としては自転によって内部核である鉄がダイナモ現象を起こして磁力ができるという説がある。金星の自転速度はきわめて遅く鉄の核がダイナモ現象をおこさないから磁場がないのではないかと言われている。 金星誕生の初期の頃は水があったとされる。ただ、太陽に近すぎたせいもあり水は全て蒸発して水蒸気となった。また磁場がないために紫外線がモロにあたり、水素と酸素に分解して宇宙空間に逃げたとされる。ちなみに金星も地球も誕生の頃には似たような環境だったとされる。ただ太陽から遠かった地球では水は蒸発せず大気中の二酸化炭素を水が吸収していった。また地球では生命が誕生し、特に珊瑚礁などは大気中の二酸化炭素を吸収し石灰岩として閉じ込めた。実際、地球上の全ての水から二酸化炭素を追い出し、石灰岩から二酸化炭素を出せば地球も70気圧の高圧になると言われている。 金星は水がなくなったせいで二酸化炭素を吸収することができず、また大気が循環するしくみもできなかったために二酸化炭素による温室効果の暴走がおこり、90気圧、気温460℃以上という文字通りの灼熱地獄のような環境となった。地球でも二酸化炭素のよる温室効果は問題視されている。なかには金星を引き合いに出して「地球も対策をとらないと金星のようになる」と脅す人もいるが、実際には短い目で見れば地球が金星のようになることはない。 いろいろな期待と地球から近いこともあり、金星は初めて探査機が調査をした惑星でもあった。ちなみに2007年現在、(失敗を含めて)探査機が多く訪れたのは金星である。最初の探査機は1962年12月14日に再接近(金星から34762km)したアメリカのマリナー2号で、この探査機は周回軌道をとらずただ通過するのみだったが、42分間にわたって写真撮影と観測を行った。ソビエトは遅れること5年、1967年10月18日、ベネラ(金星という意味)4号の観測装置をを金星内部に突入させることに成功した。これは金星に突入させた最初の人工物でもあった。ソビエトはこの突入で軟着陸に成功したと当初は発表したが、実際には地上27kmあたりで気圧によって破壊されている。 何回かの失敗を経て、1970年12月15日にソビエトの探査機「ベネラ7号」はついに金星への軟着陸に成功した。ベネラ7号は秒速11.2km/sの高速で金星大気へ突入。なんと高度50kmで減速パラシュートが外されたといわれている(大気が濃すぎて降下速度が急減速し、センサーが地上に着いたと認識したらしい)。それでも探査機の空気抵抗で減速。それでも地上に着いた時には17m/sの降下速度で「降下」ではなく「落下」と言ったほうが良かった。ただ、観測装置は壊れることはなくなんとか地上に降り立つことはできた。この時に大気の観測や写真撮影などを行った。 ソビエトはこの後も何度か金星内部に探査機を着陸させた。今のところ金星地上に探査機を軟着陸させたのはソビエト1国のみである。 北極から見た金星。 探査機「マゼラン」がレーダー照射で得たデータを元に作成されたCG画像で、目視の画像ではない。 本文でも触れているが金星は熱い雲に覆われているので地上は宇宙からは見えない。 ソビエトの探査機「ベネラ9号」が撮影した金星表面。玄武岩らしき岩が見える。 見た目にはそうは見えないがこれでも90気圧、気温465度もある。 よく「鉛も溶ける温度」と形容されるが、「木材も自然発火する温度」と形容されないのは 金星に酸素がないために燃焼現象がおきないことによる。 写真を見てわかるように、厚い雲に覆われている金星では上空を見上げるとオレンジ色に見える。 アメリカの金星探査機「マゼラン」 下に見えるのはスペースシャトル。あまり知られていないが、スペースシャトルの任務には探査機の打ち上げもある。 マゼランはレーダー観測で金星を丸裸にしたと言ってもいいほどの活躍を行った。 マゼランが撮影を行った金星。 目視写真にも見えるが、実際にはレーダー観測を行ったデータを元に作成されたCG映像。 技術の進歩を見せ付ける写真ではないか。 金星表面の盛り上がり。 「コロナ」と呼ばれるこの地形は、地下のマグマが隆起してこの地形を作ったといわれている。 金星にはこのコロナが数多く存在する。 金星の火山「サパス山」(手前の山)。 手前に見える白いものはマグマと推定される。見た限りでは火山活動を行っているように思えるが、 観測時点では活動は休止していた。 本文でも触れたが金星では8億年ほど前に金星全体規模の火山活動が起こりそれまでの地形を全て変えたとされる。 こんな大火山活動がどういったメカニズムで起こるのかはよく分かっていない。 奥の山は高い山のように見えるが、これは起伏をわかりやすくするために高低を10倍強調しているため。 実際の金星はかなり平坦な地形である。 金星の川 水が流れていたのではなく溶岩が流れていたと考えられる。 この写真では一部しか映っていないが、実際には7000kmをゆうに越える長さがある。 川幅は1〜4kmほど、深さは100mほどと推定されている。 ちなみに、全長7000kmという川は地球には存在せず、太陽系最長の川でもある。 |